【2025-2026年末年始特集】インバウンドと物価の最新動向|万博後の日本観光市場と年始商戦の展望

はじめに:過去最高を更新し続けるインバウンド市場

2024年の訪日外客数は3,687万人、訪日外国人旅行消費額は8.1兆円となり、共に過去最高を更新しました(日本政府観光局・観光庁発表)。2025年も市場拡大は継続し、2025年1月は単月として過去最高の約378万人(前年同月比41%増)を記録しています。

この好調な背景には円安による「日本の割安感」が大きく影響していると考えられますが、一方で国内では物価上昇が進行し、観光業界にも複雑な影響を及ぼしています。本記事では、大阪・関西万博終了後の現状と、年末年始商戦、そして2026年への展望を最新データとともに解説します。

※本記事は2025年11月時点で公開されている情報をもとに作成しています。

1. 大阪・関西万博の成果と観光市場への影響

【万博の実績】

2025年4月13日から10月13日まで184日間開催された大阪・関西万博は、総来場者数2,901万7,924人(うち一般来場者約2,558万人)という結果で閉幕しました(博覧会協会発表)。

当初の想定来場者数約2,820万人をほぼ達成し、2005年の愛知万博(2,205万人)を大きく上回る成果となりました。特に夏休み期間中の「夏パス」施策や毎日開催の「ミニ花火」などが人気を集め、8月30日には1日当たり18万7,449人という高い来場者数を記録しています。

【万博がもたらした観光効果】

万博開催中の4-6月期において、訪日外国人旅行消費額は前年同期比18.0%増の2兆5,250億円に達し、上半期(1-6月)の旅行消費額は4兆8,053億円と過去最高を記録しました(観光庁「インバウンド消費動向調査」)。

関西エリアへの訪日客増加だけでなく、万博を機に日本への関心が高まったことで、全国的にインバウンド需要の底上げに貢献したと考えられます。

2. 円安と物価上昇の現状

【継続する円安環境】

2019年の平均為替レートは1ドル109.0円でしたが、2024年から2025年にかけては140~160円台で推移しています。2025年11月現在も円安基調が継続しており、訪日外国人にとって日本での消費が相対的に割安な状況が続いています。

【物価上昇の実態】

国内では2024年から2025年にかけて物価上昇が継続しています。総務省の消費者物価指数によると、以下のような状況です:

・生鮮食品:顕著な伸びを示している
・交通・通信を除く品目:高水準で推移
・宿泊料金:外国人観光客の受入れ再開以降、上昇傾向

【観光業界の課題:人手不足と賃上げ】

日本銀行の短観によると、飲食・宿泊サービスの人手不足は深刻化しています。専門家の分析では、求人は増加しているものの、必要な賃上げが十分に実現できていない可能性が指摘されています(SOMPOインスティチュート・プラス、2025年1月レポート)。

サービス単価の引き上げは人件費確保の一つの方法ですが、日本人の国内旅行需要への影響も懸念されており、バランスの取れた価格戦略が求められています。

3. 年末年始のインバウンド需要:狙い目市場と消費傾向

【年末年始は訪日需要の繁忙期】

12月から1月にかけての期間は、訪日需要が高まる重要な時期です。インバウンドカレンダーの分析によると、訪日観光客が増加する主な時期は以下の通りです:

・4月:桜シーズン
・7月:夏休み期間
・10月:紅葉シーズン
・12月〜1月:年末年始、クリスマス、雪景色シーズン

特に12月から1月にかけては、アジアやオーストラリアからの観光客が多く日本を訪れる傾向があります。

【2025-2026年末年始の連休状況】

2025年から2026年の年末年始は、12月29日(月)~31日(水)を休めば12月27日(土)~1月4日(日)の9連休となります(JTB調査)。国内旅行者も多い時期であり、宿泊施設や観光施設は高い需要が見込まれます。

【主要市場別の年末年始動向】

◆韓国市場
訪日観光客の約4分の1を占める最重要市場です。年末年始や冬休み(12月末〜2月初旬)、そして旧正月(2026年は1月29日)の連休を利用して多くの韓国人が日本を訪れることが予想されます。

◆中国市場
2024年12月に発表された中国の富裕層向け10年観光ビザの新設により、今後の回復が期待されています。春節(旧正月)の連休時期には大きな需要が見込まれます。

◆オーストラリア・欧米市場
クリスマス休暇や年末年始の長期休暇を利用した訪日が予想されます。高単価で長期滞在の傾向があり、1人当たり消費額も高い傾向です。

【年末年始期に人気のコンテンツ】

・雪景色・ウィンタースポーツ:北海道、東北、北陸などのスキーリゾート
・温泉:冬の温泉体験は特に人気
・年越しイベント:初詣、除夜の鐘など日本の伝統文化体験
・クリスマスイルミネーション:都市部の装飾が人気
・冬の味覚:鍋料理、おでん、日本酒など

4. 消費行動の変化:「量」から「質」へ

【1人当たり消費額の横ばい傾向】

2025年上半期のデータを見ると、総消費額は過去最高を更新していますが、1人当たり消費額は約23万円前後で横ばいとなっています(観光庁調査)。これは消費額の増加が主に訪日客数の増加によるものであることを示しています。

円高方向への為替変動により、割安感が徐々に薄れていることも影響している可能性があります。

【「質」の向上が課題】

政府が掲げる「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円」の達成には、1人当たり約25万円の支出が必要です(観光立国推進基本計画)。現在の水準から単価を引き上げるためには、高付加価値なサービスや体験の提供が不可欠となっています。

【消費構造の変化:モノからコトへ】

費目別の消費内訳(2025年実績、観光庁調査)
・サービス消費:約70%超
・モノ消費(買い物):約30%弱

特に欧米諸国からの旅行者はサービス消費が80%超を占め、体験重視の傾向が顕著です。一方、中国や東南アジアからの旅行者は買い物代の比率が比較的高い傾向があります。

専門家の分析では、欧米客やリピーターの増加により、「買い物から体験へ」という消費構造の変化が加速していると指摘されています。

5. 2026年への展望:さらなる成長が期待される市場

【2026年の予測】

複数のシンクタンクの予測によれば、2025年の訪日外客数は約4,020万人から4,623万人、2026年には5,110万人に達すると予想されています(JTB、伊藤忠総研など)。インバウンド需要は引き続き拡大基調を維持する見通しです。

【2026年の注目トレンド】

◆セカンドシティ観光の拡大
大都市の混雑を避け、地方都市でのユニークな体験を求める観光客が増加しています。オーバーツーリズム対策としても、地方への誘客が重要性を増しています。

実際、2026年の訪日旅行トレンド調査では、地方都市への注目が高まっており、徳島や旭川などの検索数が大幅に増加しているとの報告もあります。

◆マルチジェネレーション旅行
祖父母・親・子どもなど複数世代が一緒に旅行する形態が、特に海外からの観光客に人気を集めています。バリアフリー対応や家族全員が楽しめるアクティビティの需要が高まっています。

◆「体験」と「自己表現」重視の旅
2026年の旅行トレンド調査では、旅行を通じた「自己表現」や「生き方を映す」旅が主流になると予測されています。特にミレニアル世代・Z世代が旅行支出を押し上げる傾向が見られます。

6. 年末年始に向けた観光事業者の戦略

【価格戦略の最適化】

1. 需要に応じた価格設定:繁忙期である年末年始は適正な価格設定を検討
2. 早期予約割引:早期予約を促進し、需要を平準化
3. 付加価値パッケージ:単なる値上げではなく、特別な体験をセットにした高付加価値商品の開発

【ターゲット市場別アプローチ】

◆韓国市場向け
・短期滞在が多いため、コンパクトで効率的なプラン
・SNS映えするコンテンツの充実
・韓国語対応の強化

◆中国市場向け
・買い物需要への対応(免税対応、人気商品の在庫確保)
・モバイル決済(Alipay、WeChat Pay)の導入
・中国語対応と中国SNS(Weibo、小紅書など)での情報発信

◆欧米・オセアニア市場向け
・長期滞在向けプランの提供
・体験型コンテンツの充実(文化体験、アクティビティなど)
・英語対応の徹底

【年末年始特有のコンテンツ開発】

・日本の伝統的な正月文化体験(初詣、おせち料理、お雑煮など)
・カウントダウンイベント
・冬限定の特別メニューや商品
・雪や温泉など冬ならではの体験
・年末年始限定のパッケージプラン

7. 物価上昇下での持続可能な観光業のために

【適正な価格転嫁の重要性】

人件費上昇や物価高騰を背景に、サービス価格の適正な見直しが必要です。ただし、価格だけを上げるのではなく、サービスの質を向上させることで、顧客満足度を維持しながら単価アップを実現することが重要です。

【人材確保と育成】

年末年始の繁忙期に備え、適切な人員配置と処遇改善が課題となっています。賃上げの実現には、サービス単価の見直しや業務効率化が不可欠です。

【オーバーツーリズムへの配慮】

訪日客数が増加する一方で、観光地のキャパシティや地域住民の生活環境への配慮も重要です。適切な需要分散や、地方への誘客促進により、持続可能な観光の実現を目指す必要があります。

まとめ:万博後も成長を続けるインバウンド市場と年末年始の商機

2025年は大阪・関西万博の成功により、インバウンド市場がさらに活性化した年となりました。万博終了後も訪日需要は衰えず、年末年始の繁忙期には過去最高水準の観光客が見込まれています。

円安と物価上昇という相反する要素が複雑に絡み合う中で、観光事業者には「質」の向上と適正な価格設定による持続可能なビジネスモデルの構築が求められています。

年末年始は韓国、中国、オーストラリア、欧米など主要市場からの訪日需要が高まる重要な商機です。各市場の特性を理解し、的確なマーケティングとサービス提供を行うことで、この好機を最大限に活かすことができるでしょう。

2026年に向けても、体験重視の消費トレンドや地方都市への関心の高まりなど、新たなチャンスが広がっています。「量」の拡大だけでなく「質」の向上を目指し、物価上昇とインバウンド拡大を両立させる戦略が、これからの観光業界の成功の鍵となります。

【主な参考データ】
・2024年訪日外客数:3,687万人(過去最高、日本政府観光局発表)
・2024年訪日消費額:8.1兆円(過去最高、観光庁発表)
・2025年1月訪日客数:378万人(単月過去最高、前年同月比41%増)
・2025年予測訪日客数:4,020万人~4,623万人(JTB、伊藤忠総研など)
・2026年予測訪日客数:5,110万人(伊藤忠総研予測)
・大阪・関西万博来場者数:2,901万7,924人(2025年4月13日~10月13日)
・1人当たり平均消費額:約22万~24万円(2025年実績)
・為替レート:140~160円台で推移(2024-2025年)
・2025-2026年末年始:最大9連休(12月27日~1月4日)

【情報出典】
・観光庁「インバウンド消費動向調査」(2024年、2025年各期)
・日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数統計」
・JTB「2025年旅行動向見通し」(2025年1月発表)
・伊藤忠総研「インバウンド需要見通し」(2025年3月)
・SOMPOインスティチュート・プラス「2025年もインバウンドは過去最高を更新するか」(2025年1月)
・大阪・関西万博公式サイト 来場者数発表(2025年10月)
・やまとごころ.jp インバウンド統計記事(2025年)
・各種インバウンド専門メディア

※本記事は2025年11月時点で公開されている情報をもとに作成しています。最新の統計データや政策については、各機関の公式発表をご確認ください。