【2026年5月最新】中東情勢で揺れる訪日・出国市場、いま現場で何が起きているのか

ゴールデンウィーク真っ只中ですが、観光業界の方々と話していると、表面上は「インバウンド絶好調」のニュースが目立つ一方で、現場の温度感はもう少し複雑、という声をよく聞きます。

円安は続いている、訪日客の数字は過去最高を更新している、それなのに「東京や京都の観光地は飽和気味」「中東向けのアウトバウンドは事実上止まっている」「特定の国からの予約に偏りがある」――そんな話があちこちから上がってきている状況です。

2月末のイラン情勢の急変から2か月以上が経ち、影響がはっきり見えてきたタイミングで、いま一度、訪日・出国両面から現状を整理しておきたいと思います。

2026年3月の訪日外客数、3月として過去最高を更新

まず、いちばん新しい全体数字から。

JNTOの発表によれば、2026年3月の訪日外客数は 3,618,900人。前年同月比で3.5%増、3月としては過去最高を更新しています(JNTO 訪日外客数 2026年3月推計値)。

「過去最高」というワードだけ追いかけると景気のいい話に聞こえますが、注意すべきは 伸び率が鈍化している という点です。コロナ後のリバウンド期に見られたような前年比で何十%も伸びるフェーズはもう終わっており、3.5%増という数字は、市場が成熟期に入りつつあるサインとも読めます。

JTBの予測でも、2026年通年の訪日客数は前年比で穏やかなプラス成長にとどまると見られていて、「数を追う」フェーズから「単価を上げる・リピーターを育てる」フェーズへの移行が進んでいる、という認識が業界内では共有されつつあります(JTBグループ 2026年訪日旅行市場トレンド予測)。

中東情勢の影響、想像以上に長引いている

ここからが、今回いちばんお伝えしたい部分です。

ご存じの通り、2026年2月末にイスラエルおよび米国がイランを攻撃し、その過程でハメネイ最高指導者の暗殺という、誰も想定していなかったレベルの事態に発展しました。イラン側からは湾岸諸国の米軍基地に加えて、石油施設や民間ホテルを含む観光インフラへの報復攻撃も行われ、3月初旬にはイラン空域が閉鎖、多くの航空便が一時運休となる事態になっています(外務省 中東情勢の緊迫化に伴う注意喚起)。

旅行業界への影響として、特にインパクトが大きかったのは以下の3点です。

(1) 中東向けアウトバウンドの実質的な停止

JTBやHIS、阪急交通社など大手の中東ツアーは3月以降、ほぼ全面的に催行中止または無期延期となっています(日本経済新聞 米イスラエルのイラン攻撃、日本企業を翻弄)。ドバイ経由でアフリカや欧州に向かう乗継ルートも一時的に大きな影響を受けました。エミレーツ航空、カタール航空、エティハド航空のいずれも一部路線で減便や経路変更が続いている状況です。

(2) 中東からの訪日客が約3割減

逆方向、つまり中東各国からの訪日客にも明確な影響が出ています。2026年3月時点で、中東からの訪日外客数は前年同月比で約3割減少しました(トラベルボイス イラン情勢による旅行市場の変化)。

数字としてはインバウンド全体に占める中東の比率は決して大きくはないのですが、1人あたりの旅行支出額が高い いわゆる富裕層市場として注目されてきた領域だけに、高単価のホテルやプライベートツアーを扱う事業者には地味に効いています。

(3) 原油高による航空運賃の上昇

これが、いちばん広範囲に効いてくる影響です。中東情勢の不安定化で原油価格は3月以降、高止まりの状態が続いています。航空各社のジェット燃料サーチャージは段階的に引き上げられており、欧州・北米路線を中心に実質的な運賃が10〜15%程度上昇しているという見方もあります。

これが何を意味するかというと、欧米豪からの訪日客にとって、日本への航空運賃が「以前ほどお得ではなくなりつつある」ということです。円安の追い風はあるものの、運賃上昇で相殺される部分も出始めていて、ここは秋以降の数字に表れてくるかもしれません。

アウトバウンドのリアル:戻ってきた市場と戻らない市場

「日本人の海外旅行はいつ戻るのか」というのは、観光業界の長年のテーマです。最新データを見ておきましょう。

2026年2月の日本人出国者数は 1,093,250人。これは前年同月比で-7.4%、2019年比だとなんと-28.8%です(JTB総合研究所 アウトバウンド統計)。

JTBの2026年通年見通しでは、海外旅行人数は1,550万人(前年比102.6%)、平均費用は317,200円(同104.5%)、総消費額は4兆9,200億円(同107.4%)。人数の伸びは緩やかだが、1人あたりの単価が上がっている という構図です(JTBグループ 2026年旅行動向見通し)。

2026年2月の渡航先トップは韓国(232,835人)、米国(160,409人)、タイ(116,776人)。韓国の強さ は安定していて、東京から仁川まで2時間半、週末トリップとしてのポジションがすっかり定着している印象です。

逆に、欧州方面、特にロシア上空を経由していた西欧路線は、コロナ前と比べると依然として厳しい状況です。中東情勢の悪化で「イスラエル・トルコ・エジプト方面」が事実上クローズされたことで、地中海一周のような周遊型ツアーは商品化自体ができていません。

国別動向:韓国・台湾の「日常化」と中国の本格回復

訪日インバウンドを国別で見ると、明確な棲み分けが進んでいます(アウンコンサルティング社 2025年訪日外国人の年間動向と2026年の予測)。

韓国・台湾・香港:「訪日の日常化」フェーズへ

2025年の韓国からの訪日客は945万人、台湾676万人。週末や3連休を使って気軽に来日するスタイルが完全に定着しました。「ゴルフだけ」「ラーメンだけ」「コスメだけ」のような 目的特化型・短期滞在 が増えています。

これ、事業者目線で大事なのは、1回あたりの単価は決して高くない ということです。リピーター化により総客数は安定するものの、ホテルや交通機関にとっては「客数は同じでも宿泊単価が下がる」状況も起きうる。コンテンツの単価設定を見直すタイミングかもしれません。

中国:本格回復モード

2025年の中国本土からの訪日客は909万人。ビザ緩和、団体ツアー復活、地方路線の増便などが効いて、復活傾向がはっきりしてきました。
中国本土の経済を現地で体感すると、工作機械展やEVショップの盛況ぶり、AIやロボット産業の盛り上がりに『むしろ景気が良い』と感じる場面も少なくありません。
ただしマクロデータでは、不動産投資は4年連続のマイナス、小売売上高の伸びは GDP を下回っており、成長は『外需と生産』に依存する構造になっているようです。

訪日客のセグメントとして見るなら、ハイテク産業・新興ビジネス層は引き続き活発、一方で従来の富裕層(不動産関連)は購買力に陰りが見える、というように顧客層を分けて考える必要が出てきていると考えられます。また、インバウンド対策としてSNSの傾向が以前と全く違う という点にも注意が必要です。

小紅書(RED)でバズる場所が、北海道や沖縄のような定番エリアだけでなく、瀬戸内、奈良の郊外、東北の温泉地など、かなり地方分散しています。地方の事業者にとってはチャンスですが、中国語SNSへの対応をしないと「来てほしいのに見つけてもらえない」状態になる可能性が高いです。

欧米豪:高付加価値路線へ

欧米豪からの訪日客は引き続き伸びていますが、ここでも単に「数を増やす」より「単価を上げる」方向に各社シフトしています。アウンコンサルティング社のレポートでも「高付加価値化」がキーワードとして挙げられていて、1泊10万円以上の旅館や、料理人付きのプライベートツアーなどへの需要が顕著です。

ゴールデンウィーク2026:足元で起きていること

ちょうど今、2026年のゴールデンウィーク(4月25日〜5月7日)を迎えています。

JTBの予測では、国内旅行は前年比でほぼ横ばい、海外旅行は前年比で微増の見込みでしたが、中東情勢を受けて 直前のキャンセル率が例年より高い という話を旅行会社の方から聞きます(JTBグループ 2026年GW旅行動向)。

特に欧州方面は、フランクフルトやウィーン経由のフライトが満席なのに、トルコ・ドバイ経由のフライトは空きがある、というアンバランスな状況。価格差で20〜30%も違うルートが、需要の偏りで埋まったり埋まらなかったりしています。

事業者様へのメッセージ:いま考えておきたい3つのこと

ここまでの状況を踏まえて、インバウンド・アウトバウンドに関わる事業者として いま考えておきたいこと を3つに絞ってお伝えします。

1. 中東依存度の見直し

中東向けツアー販売、中東富裕層の集客、中東経由便での予約などに依存している事業者様は、夏以降を見据えて代替ルートや代替市場の検討を急ぐべきタイミングです。情勢の改善には少なくとも半年〜1年単位の時間がかかると見るのが現実的でしょう。

2. リピーター市場の単価戦略

韓国・台湾・香港のリピーターは安定的に来てくれる一方、単価競争に陥りやすい。ここで「数を追わず、満足度を上げる」舵を切る判断が必要です。例えば、繁忙期の予約優先権、リピーター限定の体験プラン、会員制度の導入など、価格以外の差別化 を組み込めるかが分かれ目になります。

3. 多言語SNSへの本気の対応

中国の小紅書、台湾のFacebook、韓国のNAVERやInstagram、欧米のTikTok、それぞれ全く違うアルゴリズムで動いています。「うちは中国語のホームページを作っているから大丈夫」というレベルでは、もはや見つけてもらえません。各国のローカルSNSで実際にどう発信するかの戦略設計が、2026年後半からの差別化要因になりそうです。

まとめ

2026年5月時点のインバウンド・アウトバウンド市場は、表面の数字だけ見ると好調ですが、中東情勢、原油高、市場の成熟化と、複合的な変数が絡み合っている状況です。

「過去最高」という見出しに惑わされず、自社の市場ポジションを冷静に見直す。アウトバウンドなら代替商品、インバウンドなら単価戦略とローカルSNS対応。これが今、事業者として持つべき問題意識ではないでしょうか。

引き続き、毎月の動向は当サイトでアップデートしていきます。


参考資料