台湾はなぜ親日家が多いのか?インバウンドに関わる親日関係の歴史とは

日本では「タピオカミルクティー」をはじめとして、甘く煮た豚バラ丼の「魯肉飯(ルーローハン)」、豆乳なめらかプリンのような「豆花(トウファ)」などご飯系からスイーツ系まで台湾グルメブームが続いています。そんな台湾は訪日者数が世界で第3位、リピート数は世界第1位を誇るほど多くの台湾人が日本を訪れています。

台湾は世界で最も親日家が多い国と言われていますが、台湾観光情報ばかりが溢れ「どれほど親日家が多いのか」「そもそもなぜ親日家が多いのか」などよく知らない方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では台湾と日本の歴史を振り返りつつ、「台湾の親日家」について解説します。

台湾人はどれほど親日家なのか?


親日家としても知られている台湾ですが、実際のところはどうなのかと疑問に思う方もいるでしょう。まずは台湾人がどれほど日本に好意を持っているのかについて紹介していきます。

台湾人の8割以上が日本に良い印象を持つ

台湾の民間団体「台湾民意教育基金会」が2018年に発表した調査によると、台湾に住む20歳以上の男女に「台湾人が好きな国/いい印象を持っている国」を世論調査した結果、日本が第2位を獲得しました。台湾に住む84.6%もの国民が日本に好意的な印象をもっているようです。

1位:シンガポール(88.2%)
2位:日本(84.6%)
3位:カナダ(82.3%)
4位:EU(74.8%)
5位:米国(70.6%)

東日本大震災で送られた「義援金は世界第1位の250億円」

台湾は日本と同様に地震大国なので、その苦労や痛みが分かるからこそ「手助けすることは当然」と考える人が多くいます。日本で震災や災害が起こるたびに、台湾より多額の支援金や物資が届けられてきました。

2011年に宮城県沖で発生した東日本大震災の時には、震災直後に台湾救援隊の派遣用意や毛布など手渡しに来てくれたボランティアも駆けつけたのです。日本の人口は約1億2700万人に対して台湾の人口は約2,300万人ほどで年収は日本の半分以下であるのにも関わらず、台湾全体からの震災義援金は250億円を超える巨額の資金が集まりました。それほど日本への強い思いがこのような行動に表れたこととなります。

こういった台湾からの支援は、日本が台湾を統治していたことだけが影響しているわけではありません。1999年に台湾中部で起こった台湾大地震(マグニチュード7.7)には、2,400人以上が命を落とす大きな被害が出ました。その際に日本から国際消防救助隊員、警察、海上保安庁など数多くの救助隊が出動し、日本人が一番早くに駆け付け支援を行ったことが東日本大震災の際に台湾人からの温かい恩返しへと繋がっていったのです。

台湾人にとって日本は大人気の海外旅行先

日本政府観光局(JNTO)の調べによると、2017年に台湾人の「海外進出旅行先」として、第1位中国(587万人)、第2位日本(456万人)、第3位韓国(925万人)という結果でした。「訪日台湾人数」は2019年に第1位中国(954万人)、第2位韓国(558万人)、第3位台湾(489万人)となり、リピーターが多いことから台湾国民の5人に1人は日本を訪れている計算になります。

日本は地理的にもLCC(格安航空会社)の普及によっても日本へ訪れやすいため、「台湾人の海外旅行先に人気度」と「訪日台湾人数」のどちらも、毎年右肩上がりで拡大しています。特に台湾の季節には無い冬を感じられる雪景色や、美味しい海鮮料理を味わえる北海道旅行が人気です。

日本語学習者は世界で第4位

日本語能力試験(JLPT)受験者は2014年時に60万人程度でしたが2019年には2倍以上の過去最高136万人を超え、台湾は第4位の43,131人でした。第1位の中国は香港とマカオも含まれた数値ですが、第2位~第4位まではそれほど大きな差はありません。台湾では高校や大学での日本語学科が多いため専門塾もあり、台湾の文部科学省では交換留学も促していることから日本語を第二言語として習得できる環境が豊富です。

  順位       国・地域     応募者人数(人)
1位 中国(香港・マカオ含む) 158,474
2位 ベトナム   48,667
3位 韓国   48,374
4位 台湾   43,131
5位 ミャンマー    38,558

参考:国際交流基金
https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2019/dl/2019-036.pdf

なぜ台湾は親日家が多いのか?

なぜ台湾には親日家が多いのでしょうか。その理由の多くは、50年間に及ぶ日本統治時代の影響があります。具体的にどのようなことがあったのか紹介していきます。

日本統治時代による「台湾の経済発展」

もともと台湾は作物が育たなく伝染病も流行っていた土地であるため、清朝に「化外(けがい)の地」とされていました。日露戦争で勝利し1895年から1945年の50年の間日本が台湾を統治していた時代に、日本政府はなんとかして中国本土並みに近代化させていこうと計画したのです。

そして台湾の港・鉄道・道路・学校・ダムなどの「インフラ整備」、「学校教育」、「農作物の品種改良」、国民の「生活面の面倒」など前向きな行動を行ったことによって台湾は経済が活性化していったのです。

そういった行動が台湾人にとって「善意」として受けとめられたことで、現在でも当時建てられた日本の建造物はきれいに残されるほど日本に好意的に感じている人が多いのです。

台湾国民は「統治していた時代の日本がインフラ整備や支援をしてくれたから、今の台湾があるんだ。だから台湾と日本は家族のように思い、日本で災害があった際には心が痛み手を差し伸べたいと思う」と話しています。

日本統治時代による「日本教育」

統治時代には台湾を近代化するため日本語教育を行い、日本語の読み書きに加え、日本の道徳教育も行ってきました。その道徳教育は「日本精神」つまり 「約束を守り、礼節を重んじ、嘘をつかず、浪費しない品性、法を守り、勤勉である」ということを指しています。

日本の道徳があってこそインフラ整備に成功したことによって、今でも「日本精神(リップンチェンシン)」と呼ばれています。真面目な姿勢を高く評価したことから、長い間日本語で話す人々、建造物、音楽まで日本の文化を代々引き継がれているのです。

特に台湾南部は親日家が多い

台南や高雄などの台湾南部には親日家が多いと言われ、中国語が公用語の台湾で「台湾語」や「日本語」を話す人が多いです。その理由にはまず台湾人は「台湾本省人」「台湾本省人」「台湾外省人」の3つの民族からなっていることを知っておく必要があります。3つの民族は見た目では分からないものの大きな違いについて具体的に解説していきます。

台湾先住民

「台湾先住民(原住民)」は中国大陸各地から移民が増えた17世紀以前より台湾で生活していたアミ族、パイワン族、タイヤル族など16民族(政府認定)からなる人々のことを言います。16民族のうち9民族は「高砂族(たかさごぞく)」とも呼ばれ、日本兵と共にアメリカと戦った民族として有名な話です。

台湾本省人

「台湾本省人(ほんしょうじん)」とは1895年から1945年の日本統治時代も含めて、それ以前よりも中国大陸各地から台湾へ移り生活してきた人々のことを言います。またはその子孫も含まれています。

1949年から38年もの間、国民党により日本語が禁止されていたことがありました。中国語の教育を受けるようになった子世代と、日本語教育を受けた親世代で会話が出来ないだけでなく価値観も異なったため、親子でさえも理解が難しくなっていったのです。そのような教育の違いから、現在日本語や台湾語を話せるお年寄りは、中国語を話せない人も多くいます。

台湾外省人

「台湾外省人(がいしょうにん)」とは日本の統治時代が終わった1945年(台湾光復)以降に、中国大陸各地から台湾へ移住してきた人々のことを言います。蒋介石(しょうかいせき)を筆頭とした国民党の中国人とも言えるでしょう。

つまり台湾人とは?

現在2,300万人が暮らす台湾にはこの3つの民族からなり、現在の民族比率は「先住民2%」「本省人85%」「外省人13%」と言われています。

台湾北部には中国大陸各地から移り住んだ外省人が集まり、台湾南部には先住民と本省人が集まっていきました。そのため台湾南部の街を歩くと当時を懐かしむような日本らしい建物や音楽が未だに残り、そして日本語を話せる人が多いため南部エリアは親日家が多いのです。

北と南の民族によって分断があったものの、互いが結婚し何世代も繋がっていったことにより、徐々に分断は薄くなってきています。

親日だけでなく反日派もいる

ここまで親日家が多い台湾人についてお話しましたが、国民全員が親日家ではありません。先ほど述べたように長い歴史の中で起きた日本の統治時代、経済、政治、民族、文化、教育などさまざまな要因によって反日・反発感情を持つ人はいます。「中国と台湾」、「独立と統一」を求めるそれぞれの立場や受け取り方によって感情は大きく変わり、マイナスにもプラスにも動くのは人間としてごく自然なことと言えるでしょう。

現代の台湾人が日本に触れるきっかけとは?


親日家が多いのは日本統治時代を生きたお年寄りだけではなく、10~20代の若者も含めた幅広い世代が好意や興味を持っています。今を生きる台湾人は、どのようなことで日本を深く知り興味があるのか理由を5つ紹介していきます。

きっかけ①統治時代の建物が今も保存されている

今もなお、台湾にはいくつもの日本統治時代の建造物があります。有名な建物は赤レンガと白い石を使い民政・陸軍・海軍が設置されていた「台湾総督府」、重厚な赴きがある「土地銀行」、テレビドラマのロケ地に使用されレトロな雰囲気の「台湾銀行」などです。近年、日本統治時代の歴史的建造物を守ろうとする風潮が強まり、台湾のいたるところで見ることができます。

きっかけ②日本のテレビ番組

台湾にはテレビチャンネルが100以上あり、その中には日本のテレビ番組専門もあります。アニメ、ドラマ、バラエティー、音楽番組などがいつでも視聴できることで日本に興味を持つ人が多く生まれ、日本で言うところのオタク「哈日族(ハーリーズー)」と呼ばれる若者が増えています。哈日族は日本の伝統文化、サブカルチャー、ファッションなど「日本に好意や興味を持つ人」を意味しています。

きっかけ③日本製品の高い信頼と安全性

日本製品は「高品質・安全・信頼」があるとされており、高い人気があります。近年インターネットで海外の商品を購入することができる越境ECで日本製品を手にしやすくなりましたが、日本で実際に売られている商品の方が成分も良いだろうと勘違いする人も多くわざわざ日本旅行へ行く人もいるのです。さらに台湾製品であっても日本の地名や日本語の記載がされたパッケージで、勘違いして購入させるような戦略もあるほどです。

きっかけ④台湾進出する多くの日本食レストラン

台湾国内には数多くの日本食レストランが多く存在し、台湾首都の台北内には800件以上はあるとされています。ラーメン、そば、うどん、寿司、とんかつなどのお店があり、本物の味を求めるため手打ちそば専門店のような「専門店」も人気が高まってきています。

きっかけ⑤国民の5人に1人が訪日旅行者

冒頭でも述べたように、台湾から年間489万人が日本を訪れています。訪日目的は家族や友人との話題として、日本での挙式やSNSへ投稿して自慢することがステータスとなり毎年多くの観光客を呼んでいます。そのため台湾で人気のSNS、FacebookやYouTubeには数多くの日本情報が投稿されているのです。

歴史を知って、もっと台湾の魅力を知ろう

この記事では「台湾の親日家」について紹介しました。台湾は日本に災害が起きると一刻も早く派遣員を設置し、世界一の義援金を集めるほど日本への好感を抱く国民が多くいる国だと言えます。

台湾に親日家が多い理由には日本統治時代の「ダムや鉄道等のインフラ整備・農作物の品種改良・教育」などから台湾全体の経済が活性化され、国だけでなく国民も豊かになっていったのです。日本が台湾に対して住みやすいよい環境を作っただけでなく、複雑な思いがありつつも台湾人の明るく受け入れるための大きな心があったからこそ大きく発展していったことでしょう。

年代や置かれた環境によっては日本に対する思いや親しみを感じる度合いは異なるようですが、多くの台湾人が日本人を家族のように思うからこそ災害時に多額の支援を受けることとなったのです。

日本統治時代を生きたお年寄り、アニメやドラマを好む若者、そして勤勉、礼儀正しさ、向上心など道徳的にも日本に憧れる台湾人が多くいます。台湾人の前向きな姿勢と日本人の真面目さが無かったら、これほど多くの親日家はいなかったことでしょう。

日本国内では台湾のグルメと旅行で台湾ブームがおこり、反対に台湾からは年間多くの訪日旅行者が足を運んでいます。観光情報ばかりが溢れかえる今の時代、歴史や経済を知ることでもっと深く台湾の魅力に気づいていけるのではないでしょうか。