お店や施設を一人で利用する・訪れることを表す「おひとりさま消費」。
おひとりさま専門店が続々と登場している理由には、「おひとりさま消費・経済」が新たなビジネスチャンスの一つとして近年注目を浴びているためです。
そこで今回は、おひとりさまを対象とする商品やサービスが増加している背景、ターゲットにするメリット、集客するうえでのポイントについても詳しく解説していきます。
目次
おひとりさま消費とは
「おひとりさま消費」は自分一人の時間で外食や旅行、趣味などを積極的に楽しむ行動・消費活動のことを指し、「ソロ活」とも呼ばれています。
これまで一人での行動・消費というと「ぼっち○○」など揶揄され、「寂しい」「辛い」「恥ずかしい」といったマイナスな印象を抱かれがちでした。
しかし近年では、「自立している雰囲気がかっこいい」「自分なりの楽しみ方を持っている」「自分だけの空間と時間を楽しみたい」といったように、ポジティブなイメージを持つようになってきています。
特に女性や若者の間では決して珍しい行動ではなく、むしろ憧れの的になっている人も少なくありません。
おひとりさま市場の属性
「おひとりさま=独身が一人で行動する」ことをイメージしがちですが、実はそうではありません。
次の4つの属性のように、独身、既婚者、子持ちの既婚者、男女も関係なく、自分一人の時間を楽しみたいと考えている人は増加しています。
②ゆくゆくは結婚する「独身者」
③結婚はしたけれど一人の時間も大切したい「既婚者」
④事情により老後おひとりさまになってしまう「既婚者」
例えば夫婦で旅行へ行き全ての行動を共にするのではなく、観光スポットや昼食はそれぞれの好みのところで楽しみ、宿泊先は一緒という過ごし方をする人もいます。
コロナ禍で在宅勤務が当たり前になった場合や同じ職場で昼夜一緒に生活する家族であれば、「一人の時間がほしい「一人になりたい」という気持ちを抱く人も少なくないはずです。
老後の死別や離婚、パートナーだけが介護施設に入るなどの理由であれば、必然的に一人の時間を過ごさなければならないため、老後充実した時間を過ごすために前もって夢中になれるものを探しておく人もいるでしょう。
たった数時間でも一人の時間を過ごすことで心をリセットし「ストレス解消をしたい」というニーズは高まっていることから、さまざまな業界においておひとりさまを対象とした商品やサービスの提供が拡大しています。
おひとりさま需要が伸びている影響
なぜ、おひとりさま需要が増加してきているのでしょうか。大きな要因となっているのは下記の3つです。
・IT技術の進化
・コロナ禍
要因①ライフスタイルの変化
まず1つ目は、ライフスタイルの変化に伴い、既婚者やファミリー層は減少し、高齢単身世帯は増加していることです。
内閣府の「令和4年版 少子化社会対策白書」が発表した未婚率の推移をみていきましょう。
1990年から2020年の未婚率を比較してみます。
【男性】1990年→2020年の変化
・25歳~29歳:65.1% → 72.9%
・30歳~34歳:32.8% → 47.4%
・35歳~39歳:19.1% → 34.5%
【女性】1990年→2020年の変化
・25歳~29歳:40.4% → 62.4%
・30歳~34歳:13.9% → 35.2%
・35歳~39歳: 7.5% → 23.6%
長期的にみると未婚率は上昇傾向が続いているものの、
・男性:25~29歳、30~34歳、35~39歳
・女性:30~34歳、35~39歳
においては、2010年頃と比較しておおむね横ばいとなっています。
さらに50歳時の未婚割合を1990年から2020年で比較すると、男性が5.6%→28.3%(約5倍増)、女性が4.3%→17.8%(約4倍増)に大きく拡大していることが分かります。
未婚率は結婚観や恋愛観の変化による新たなライフスタイルや、経済状況の悪化が影響しているようです。
未婚率は年齢を重ねるにつれ減少傾向にあるものの、自分らしいライフスタイルを求め、高齢単身世帯の未婚率は今後増加いくことでしょう。
要因②IT技術の進化
SNSやアプリなどのITの普及により、いつでも誰とでも繋がれるようになった今、現実世界に加えてネットの社会でも繋がることで対人コミュニケーションに嫌気を感じる人が急増しています。「シェア疲れ」とも言われています。
さらに、仕事もプライベートも一人で不便なく時間を使えるアプリやサービスが登場したこともあり、積極的に一人の時間を楽しむようになっているとみられています。
要因③コロナ禍
新型コロナウイルス感染症拡大を抑えるため、非接触型のコミュニケーションが不可欠となりました。
カップル・家族・友人・職場の同僚と現実に会う機会が大きく減ったことで自分一人で過ごすことが当たり前となり、一人行動の楽しさに気づいた人も多いことでしょう。
おひとりさま客をターゲットにした事例10選
おひとりさま向けの商品やサービスは年々増えてきていますが、実際にはどういったものがあるのでしょうか。
ここでは定番化しているものからちょっと変わったものまで、おひとりさまビジネスを10選ご紹介します。
・カラオケ
・キャンプ
・旅行
・レジャー施設
・ジム
・サウナ
・スポーツ
・ウエディング
・家電
飲食店
焼肉や鍋であればみんなとワイワイ、高級レストランであればパートナーとゆっくり食事をするイメージがあります。
おひとりさま向けとして席には自分で焼き加減を調節できる一人専用コンロの設置、好きなものを好きなだけ食べられる食べ放題メニューなど、一人でゆっくり思う存分食事を楽しむことができます。
カラオケ
「一人カラオケ」はお気に入りの曲を何度でも歌えたり、人前では歌うのが恥ずかしいアニソンや古い曲、洋楽などのジャンルも気にせず歌うことができます。
待っている時間がない、周りを気にせずカラオケの採点をする、歌い疲れたらPVを繰り返し視聴、楽器の演奏にもぴったりです。
キャンプ
「ソロキャンプ」は一人用のコンパクトなアイテムで、設営・撤収、食事、宿泊まで全て一人で行うスタイルのことです。
焚き火の炎や絶景を眺めて、のんびりと優雅な時間を独り占めできます。
都会の喧騒やリアル・ネットの世界によるわずらわしい人間関係から少し距離を置き、自然の中で心身ともにリフレッシュできます。
旅行
「ひとり旅(一人旅)」は行先・宿泊先・手段など自分一人だけでプランを練ったり手配を行う旅行です。
旅の途中でプランを変更するのはもちろん、食事や観光などを思うがまま旅を楽しめます。
レジャー施設
映画館・美術館・博物館・水族館・テーマパークなどのレジャー施設を一人で楽しむことです。
施設によってはカップルや家族連れが多く、おひとりさまでは落ち着いて過ごせない方も多いでしょう。
仕事帰りにも気軽に立ち寄れるナイトプランや、周りを気にせず楽しめるおひとりさま限定プランなど、おひとりさまゲストに配慮している施設もあります。
ジム
従来のフィットネスジムと言えば機器や道具が置かれたトレーニング設備、プール、スタジオなどの部屋があり、会員が同じ空間でトレーニングを行うのが一般的です。
しかし、新型コロナウイルスの流行に伴い三密状態になりやすいことや、他者と共有する機器やドアノブなど手に触れる場所が多いことから、会員数が減少していました。
そこで注目されたのが「個室ジム(プライベートジム)」です。
完全個室でマンツーマン指導で行う個人ジム(プライベートジム)は不特定多数の人との接触を避けることで、コロナの感染をできるだけ防げます。
さらに、各種トレーニングマシンの順番待ちや周囲の目を気にすることなく、トレーナーがサポートしてくれるのが魅力です。
サウナ
従来のサウナは温泉やホテル、トレーニング施設に併設された、共有のサウナが一般的です。
しかし、個室ジム(プライベートジム)と同様に、コロナの感染対策はもちろん、ライフスタイルの多様化に伴い、気軽に周囲を気にせず安心・安全な環境の中で入れるのが「個室サウナ(プライベートサウナ)」です。
「個室サウナ(プライベートサウナ)」は一人やカップルなどの少人数が入れる施設の貸切なので、サウナや水風呂の温度、ロウリュの加減など自分の好みで利用できます。
スポーツ
ボールを使ったスポーツは特に一人でプレーすることは難しく、スポーツの種類によっては広い場所を必要とする場合があります。
そして、会社の上司や取引先と一緒にプレーする場合は、「気を使ってしまい純粋にスポーツを楽しめない…」といったこともあるでしょう。
しかし、テニスや卓球、ゴルフなど一人で楽しめる施設が増えたことで思う存分練習したり、自分の好きなタイミングで気軽に行ける、周りに誘う人がいない場合でも運動ができるサービスです。
ウエディング
ウエディングは本来パートナーがいてこそ成り立つビジネスですが、一人でドレスや白無垢の花嫁姿でプロのカメラマンに撮影をしてもらえるサービスが「ソロウエディング」です。
「ひとりウエディング」「ひとり結婚式」「ソロ婚」「ソロ結婚式」などとも言われています。
綺麗な自分の姿を残せる、小さいころからの憧れを叶える、ウエディング写真の撮り直し、アイドル等の推しとの結婚式など、理由は人それぞれです。
既婚女性に限らず、未婚女性や男性までもがそれぞれ楽しみながら、一生の思い出を作ることができます。
家電
節約や健康のため、趣味のために自炊したいと思っても、「一人暮らしだと調理器具や食器類を揃えるのが大変…」といった声を叶えてくれるのが、おひとりさま向けの小型家電です。
鍋、焼肉プレート、七輪、天ぷら、食器洗い乾燥機までコンパクトなものが続々登場しています。
おひとりさま客を獲得するメリット
おひとりさま向けのサービスは世の中にたくさん出ているということが分かったと思いますが、おひとりさまを獲得するメリットはどういった点があげられるのでしょうか。
・リピート率アップを狙える
・単価アップを狙える
・TPOをわきまえている人が多い
メリット①回転率が上がる
複数人で飲食店を利用した場合、お腹を満たすこと以外にも会話を楽しむことを目的としていることが多いため、どうしても滞在時間が長くなりがちです。
一方でおひとりさまの場合は、飲食を終えるとすぐに帰る人が多いため回転率アップにつながります。
ただし、カフェはインターネットや読書、仕事をしながらゆっくりとした時間を過ごす傾向にあるため、回転率アップには期待できません。
メリット②リピート率アップを狙える
おひとりさまは自分の都合次第で気軽に行動できるため、施設・お店の雰囲気やメニュー・プランが好みであれれば、リピーターとして何度も足を運ぶ傾向が高くなります。
リピーターが増えれば安定的な売上を上げられたり、集客コストの削減にもつながります。
メリット③単価アップを狙える
ひとりで飲食店に入った場合、「〇〇が食べたい」「〇〇が飲みたい」といった目的が明確になっているケースが多いです。
そのため、おひとりさま向けのハーフメニューやデザート類などを用意しておけば、注文品数や客単価アップにつながる可能性があります。
メリット④TPOをわきまえている人が多い
普段はおとなしい人でも、グループでの行動やお酒を飲むことでついつい羽目を外し大声で騒ぐ、他のお客様の迷惑行為をしてしまうケースがあります。
おひとりさまの場合は飲食・空間を楽しみながら、スマートフォンでの操作や読書をしている人が多いため、お客様同士のトラブルにつながることが少ないと言えます。
マナーの良いお客様がいると「類は類を呼ぶ」といったように同じくマナーを心得たお客様を呼びこめます。結果的に店全体の雰囲気が良くなり、リピーターアップにもつながっていけるでしょう。
おひとりさま客を呼び込む上で大切なこと
おひとりさまを集客するための方法は、具体的にどんなことがあげられるのでしょうか。
・不満や不安要素を解消する
・個性的なおひとりさま限定プランを用意
・手の届く贅沢を提供する
・付加価値を高める
①歓迎する姿勢を見せる
冒頭でもお話したように、おひとりさまはポジティブに捉えられるようになってきているものの、実際に足を運ぶとなると「お店・施設の迷惑にならないだろうか」「嫌がられないだろうか」「ひとりでもゆっくりできる雰囲気だろうか」と感じてしまうものです。
そのため、「おひとりさまを歓迎します!」という姿勢を積極的に見せていくことが大切です。
飲食店であれば一人の空間をより過ごしやすいように個室や仕切り席の用意をしたり、公式ホームページやSNS等におひとりさま向けの商品サービスを載せてアピールするのもよいでしょう。
②不満や不安要素を解消する
ひとりで過ごすことで感じる不安解消のサポートです。
周りの視線を気にせず食事をするためには、ルームサービスの充実やおひとりさま向けの個室の用意、施設周辺の治安など、不安を解消できる対策が重要です。
一人客の気持ちを理解することは大切なものの難しい場合は、実際に利用者にアンケートを取るのもおすすめです。
「どんなプランがあると嬉しいのか」「どんなことが一人では使いずらいと感じているのか」など、具体的な意見を集めることで安心・安全に利用してもらえるでしょう。
③個性的なおひとりさま限定プランを用意
「おひとりさまを歓迎します!」と伝えるだけでなく、ひとりだからこそできる至福の時間を満喫してもらうためのユニークなプランの設計が重要です。
例えば、おひとりさま限定の美食を味わえるプラン、コンパクトでありながら非日常空間で過ごせるプラン、ひとりでも満喫するアクティビティ、ひとり利用でも孤独を感じさせないおひとりさま貸切デーなどが挙げられます。
ユニークなプランは他のお店・施設との差別化が図れるので、消費者にとって価格よりも価値を重視し、高い価格でも売れる仕組みが作れます。
ひとりの参加・滞在だからこそ、おひとりさま同士で出会いが生まれるといった交流の場となるのも魅力の一つとなるでしょう。
④手の届く贅沢を提供する
ほんの少しお金を上乗せすれば幸福感もアップする、オプションメニューの提供です。
給料は上がらないのに物価や値上がりしている今は、支出を抑えたお金の使い方をしている人は多いものです。
そんな中、「週末だから」「給料日後だから」といったときに、プチ贅沢で気分を上げるための商品やサービスを提供するのもよいでしょう。
⑤付加価値を高める
低価格志向の手の届く贅沢とは反対に、本物志向を求める人や高所得者向けには、高付加価値で高級化を試みるプラン・空間づくりもおすすめです。
SNSやインターネットなどITの普及により若い世代でも稼げる時代だからこそ、幅広い層にはまるプレミアム戦略を取り入れることも重要となるでしょう。
まとめ
今回はおひとりさま市場の現状や対策についてご紹介しました。
日本では未婚化や晩婚化が加速していることや、一人の時間を大切にしたいという需要の高まりに合わせて、おひとりさま需要がさらに拡大していくと予想されます。
どの業界においてもおひとりさまに向けた商品やサービス、マーケティングを検討していくことで、ビジネスチャンスを広げていける可能性があるといえるでしょう。