2023年8月の訪日外客数は215万人を超えとなり、2019年の同月比では85.6%まで増加しています。回復率は新型コロナウイルス拡大後の8割を上回り、順調な回復を見せています。
しかしながら、中国からの訪日客数は伸び悩んでいます。その理由は福島第一原発による「処理水の放出」です。
コロナウイルス感染以前では中国からの訪日客数の多さが目立っていましたが、「日本産の水産物輸入禁止」や「訪日旅行の一時停止の提案」など経済への影響が大きく出ています。
そこで今回は、
処理水放出で日本を猛批判する中国政府
処理水排出問題があがってから、中国で日本を猛批判する動きが多く見られています。
まずは、どういった経緯で処理水が排出されたのか簡単に確認しつつ、中国政府や中国国民の動きがどのような状況となっているのかみていきましょう。
福島第一原発の処理水放出開始の経緯
2011年3月の東日本大震災以降、福島第一原発の原子炉の冷却に使用された「汚染水」を処理したものを「処理水」として、敷地内のタンクにためられてきました。
1000基以上のタンクが満杯になっている状態となっていることや、いつまでも敷地内にこのままタンクを増やし続けることができない状況となっていました。
こういった理由から、日本政府は福島第一原発処理水の太平洋への放出を2023年8月22日正午過ぎに開始しました。
東京電力ホールディングス(以下、東京電力)は2023年度中にタンクにたまっていた処理水の総量の2.3%に当たる3万1200トンを流す計画として、2回目の処理水放出は10月5日を予定しています。
処理水の処分について詳しく知りたい方は、下記経済産業省のHPをご確認ください。
経済産業省(METI):ALPS処理水の処分
処理水放出反対による中国国内の動き
東京電力は処理水の放出を万全の安全対策で実施しているため、国際原子力機関(IAEA)からは「安全基準に合致している」と承認を得ています。
そのため、処理水放出は人間および環境への放射線の影響は無視できる程度」だと結論付けています。
しかしながら、中国政府は日本政府の対応に猛批判し安全性を警戒する動きから、日本産の水産物の輸入を全面停止としました。
その影響によって中国国内にある鮮魚を扱う寿司屋や天ぷら屋といった日本食飲食店が相次いで閉店している状況です。
たとえお肉をメインとした焼肉店などであっても、「日本式焼肉」から「韓国式焼肉」のようにメニューやインテリアが変更されるといった変化が見受けられ、日本への影響が色濃くでているところもあります。
ブーメラン現象で中国漁業関係者も悲鳴
水産業が盛んな中国・青島(チンタオ)では、水揚げされた魚やカニなどが大幅に値下がっています。
これは、中国政府や中国メディアなどが「各汚染水」と日本批判を続けた結果、中国市民の「鮮魚離れ」が進み、日本産に限らず自国産の海産物であっても警戒心が強まっています。
日本国内の漁業関係者だけでなく中国の漁業関係者からも、消費の冷え込みの長期化を懸念する声もあがっています。
放出反対による中国からの「不買運動」や「嫌がらせ電話」
中国国内のメディア報道の影響も加わり、中国版X(Twitter)にあたるSNS「Weibo」では、処理水放出に関わるものがトレンド上位となっています。
「日本の物は食べない・使わない」「日本に行かない」などのコメントが多く見受けられるようになりました。
水産業のダメージだけにとどまらず、「放射線の影響を受けている日本の化粧品リスト」というフェイクニュースまで拡散していることから、日本製品のECサイトでの販売取引額が例年に比べて大きく減少しているといいます。(参照:NHKニュース)
さらに、日本への嫌がらせのために福島県内の飲食店や東京都内の公共施設などへ迷惑電話が殺到するほど、日本を猛批判している事態にまで広がっています。
ピンチをチャンスに変える「脱中国依存」の動き
最大の輸出先である中国が水産物の輸入禁止を発表したため、出荷前の大量の鮮魚は輸入キャンセルとなりました。
キャンセル費用に加え、養殖漁業の場合は出荷が遅くなればなるほどエサ代がかかることから、数千万円〜数億円、あるいはそれ以上の損失が出るケースも少なくありません。
そのため、中国依存の高さが痛手となった企業・業界は特に、戦争や紛争というリスクも考えながら、販路を一気にシフトさせていくことが重要となっています。
ジェトロ(日本貿易振興機構) では日本の食材に関心を持つ海外18カ国のバイヤーを東京に招待したり、各企業による積極的な国内外への新しい出荷先を決める営業を行うなどしてピンチをチャンスに変えつつ、脱・中国依存を進めている動きが高まっているようです。
中国人観光客の訪日旅行の現状
処理水によって海鮮離れや電話による嫌がらせ、SNS・テレビ・メディア等での日本批判などが目立っていると先ほどお伝えしましたが、訪日旅行についてはどれほどの影響があるのでしょうか。
訪日旅行状況の聞き取り調査の結果はいかに
中国では9月29日から日本の十五夜にあたる「中秋節」と、建国記念日にあたる「国慶節」を合わせた、例年より1日長い8日間の大型連休が始まりました。
国内旅行者数は1日平均で1億人、8日間でおよそ20億人が移動するというほど、日本とはスケールが違う大型連休です。
そんな大型連休の動きを日本政府観光局(JNTO)が日本政府観光局を通じて、現地の旅行会社へ訪日旅行に関する聞き取り調査を行いました。
すると、「飲食の安全性」や「ツアーの延期・中止の可能性」についての問い合わせが一部あったものの、個人旅行客のキャンセル数はそれほど多くなく、業者によっては問い合わせやキャンセルがゼロのケースもあったようです。
両国関係がギクシャクしている中、これまでのように日本は人気の海外旅行先であり、北京や上海では日本行きの便が満席になるほど賑わいをみせているというのは驚きです。
訪日した中国人観光客の実際の声はいかに
処理水放出後、福島第一原発周辺でとれた魚から基準値のトリチウム検出はされていないことや、日本は基準が高く安全であるという認識を持つ方が多くいます。
そのため、特に若者世代は「好きなものを好きなだけ食べたいから、訪日旅行中の食事は気にしない」という声があがっています。
一方、訪日旅行に来たもの、「子どもの食べ物や海鮮物は避けるかもしれない」「処理水が放出されたばかりなので、それほど汚染がないうちに日本へ来ようと思った」といった考え方の人もいるようです。
中国人観光客数は少ないが客単価は増加
訪日外国人観光客全体数でみると中国人観光客数はコロナ前の4割程度しか戻ってきていないものの、高級ブランド品や美容家電などの高額商品を扱うお店では客単価や売上が伸びているといいます。
その理由は円安です。円安によるお得感からか財布の紐がゆるみ、高価な商品を購入する客が増えているようです。
不安定な状況が続く中国経済
中国では新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込めようとする方針や政策の「ゼロコロナ政策」、今回の「水産物の輸入禁止」のように厳しい措置がとられてきました。
中国政府は当面、慎重に動くであろうことから、突発的な観光禁止などを発表する可能性もあります。
さらに、世界で最も多額の負債を抱える企業となっている中国の不動産開発大手「中国恒大集団(こうだいしゅうだん/エバーグランデ)」の破産の恐れがあるとしています。
不動産業界以外でも景気が悪く、若年層の失業率も20%以上と高い状態になっていることから、中国経済は非常に不安定な状況となっています。
そのため、中国向けにビジネスを展開している企業などは動向を注視しておくだけでなく、輸出先や進出を中国以外にも多角化することでリスク分散していくことが重要な選択肢の一つとなっていくでしょう。
まとめ
今回は、「福島第一原発の処理水の放出により、批判が過熱する中国による日本への影響」についてご紹介しました。
テレビやメディアが発信しているほど中国国民全員が反日感情を持っているわけではないため、中国消費者や中国人バイヤーは日本で管理・販売しているから安全だろうという考えの人も多くいます。
しかし、中国では国を挙げて禁止措置などの厳しい制限を突然実施することもあるため、そうなると経済状況は一気に深刻化してしまいます。
今このピンチをチャンスに捉え脱中国を目指した方向へ進んでいくことが、重要なカギとなっていくことが経営強化のカギとなっていくことでしょう。