観光公害は国内外で増加している?3つの具体的事例と解決策をご紹介

訪日観光客が増加する昨今、観光公害も増加しています。例えば京都や奈良、鎌倉などの観光都市では、住民にさまざまな実害が発生しています。この記事では訪日観光客の増加に伴う観光公害の実例を紹介した上で、行われている対策についても言及いたします。

訪日観光客増加に伴う観光公害

いわゆる観光都市と呼ばれる京都や奈良、鎌倉などは、外国人観光客で賑わっているほか、白川郷や富士山などの地方にも、多くの外国人が訪れています。それら観光地に溶け込んでいると、「ここは日本ではないのかも」と錯覚するほど国際色豊かな賑わいとなっています。

しかし、外国人観光客の増加に伴い、観光公害も増えています。まずは観光公害とは何か、どれほど訪日観光客が増加しているのかから紹介します。

観光公害とは

観光公害とは、観光客の増加に伴う地元への負荷のことを指します。観光公害はクローズアップされていないことも含めると、その内容はさまざまです。たとえば、開発による景観の破壊や文化財の破損、住民のプライバシー侵害や日常生活への支障など枚挙にいとまがありません。

訪日外国人による観光公害は日本人観光客による観光公害とは異質です。なぜなら、マナーに対する考え方や価値観が異なるほか、注意しようにも言葉が通じないからです。

観光収入に喜ぶ都市や一部住民とは裏腹に、観光とは関わりなく暮らしている多くの住民には実害でしかないようです。

訪日観光客は増加している

訪日観光客数は急増しています。日本政府観光局(2019年10月発表)によると、2018年は3千万人を突破し、10年前の2008年(800万人)から4倍近くとなっています。15年前(2003年)に遡れば500万人ほどだったので、この15年間で6倍以上の増加となっています。

訪日外国人の人数(単位:人) 前年比伸び率
2018年 31,191,856 8.7%
2017年 28,691,073 19.3%
2016年 24,039,700 21.8%
2015年 19,737,409 47.1%
2014年 13,413,467 29.4%
2013年 10,363,904 24.0%
2012年 8,358,105 34.4%
2011年 6,218,752 -27.8%
2010年 8,611,175 26.8%
2009年 6,789,658 -18.7%
2008年 8,350,835 0.0%
2007年 8,346,969 13.8%
2006年 7,334,077 9.0%
2005年 6,727,926 9.6%
2004年 6,137,905 17.8%
2003年 5,211,725 -0.5%

※日本政府観光局 (JNTO) を参考に著者作成

観光公害の具体的事例3つ紹介

さまざまな観光公害の中でも、主だったものやセンセーショナルなものを、事例として3つ紹介します。事例から地元民の苦悩が見て取れるでしょう。

交通機関の混雑など生活への支障

外国人観光客の増加に伴い、公共交通機関が混雑するなどの影響が出ています。電車やバスが混雑すれば、通勤や通学、お買い物などの移動が不便となり、日常生活への支障となります。

また、電車の中で大声で話したり笑ったりする外国人が多く、日本人の乗車マナーとの違いが各種メディアで報道されたこともあります。

民泊にまつわる公害

民泊にまつわる公害も顕著です。民泊周辺では夜中まで騒ぐ外国人観光客や、キャリーケースの音がうるさくて眠れないという苦情が多いです。

また、民泊と間違えて敷地内に入って来た外国人に起こされたというケースも多発しています。無許可で営業している民泊も存在し、地域住民とのトラブルも含め、課題はまだ未解決となっています。

京都祇園では舞妓へのマナー違反

京都祇園では舞妓へのマナー違反が横行しています。舞妓を追いかけたり、勝手に写真撮影をするほか、芸舞妓が乗ったタクシーを囲んでの撮影するなどの行為もあります。酷い事例として襦袢を引き裂かれた芸妓がいるなどのニュースもあり、京都の文化と外国人のマナーの間に葛藤が生じているようです。

ちなみに祇園新橋では、外国人を含む観光客の増加による安全上の問題から、夜桜ライトアップイベントが中止となりました。27年間親しまれて来たイベントも、観光公害の影響を受けてしまったようです。

日本国内での観光公害対策

これら観光公害に対して、放置したままということではありません。住民や自治体によって、さまざまな対策が取られています。具体的にどのような対策がなされているのかについて紹介します。

観光マナーの啓蒙

観光マナーの啓蒙が、地元住民や自治体によって行われています。たとえばゴミの分別問題や禁止されているところへの侵入・写真撮影は、外国人観光客に悪気がないケースが多いです。

単純に日本のマナーを知らなかったり、分別表記が読めないため、マナー違反をしているつもりではないのです。分からなければマナーの守りようもないため、結果的に迷惑行為へとなっています。

訪日外国人のマナー改善のために、多言語によるリーフレットやポスターなどを利用し、観光地各所で啓蒙活動が行われています。

外国語マナー啓蒙動画

政府も対策に乗り出しています。五輪や万博に向けて訪日観光客はさらに増加すると見込み、電車の乗り方や歴史的建造物の写真撮影など、基本マナーの動画を作成しています。

動画は英語、中国語、韓国語の3カ国で行われた上、混雑やマナー違反など観光地を評価する指標も取り入れるとのことです。

ホテル新規開業お断り宣言

2019年11月20日の産経新聞ニュースによると、京都市は「宿泊施設の新規参入お断り宣言」をしました。京都市はインバウンド需要により、宿泊施設が急増している現状であるため、これまでの誘致方針から急転して、京都市が求める施設以外をお断りすると宣言したのです。

ホテル誘致をし出した2016年におよそ3満室だった宿泊施設は、2019年にはおよそ4万6千室に増えています。

今後の宿泊施設の建設に関しては、地域住民に理解してもらうための手続きを充実化させた上で、2020年以降に制度化すると表明しています。

海外での観光公害が増えている

観光公害は日本だけでなく、海外でも増加しています。たとえばイタリア・ヴェネツィアは、人口がおよそ5万千人に対して年間2,100万人の観光客が訪れています。

スペイン・バルセロナはおよそ160万人の人口に対して観光客数は年間およそ3,200万人、オランダ・アムステルダムの人口はおよそ85万人に対して観光客数はおよそ1,700万人となっています。

街の規模に対して多くの観光客が押し寄せることで、ゴミ問題や渋滞、ホテル需要による住宅価格高騰など、観光公害も増加しています。

海外での観光公害対策

海外での観光公害対策としては、観光客数の制限や観光地へ向かう観光客数のコントロールなどがなされています。たとえば、ヴェネツィアの場合は、本島以外の島(ムラーノ、ブラーノ)などに観光客を誘導しています。

また、復活祭やカーニバルなど、観光客で賑わう最盛期を避ける呼びかけをしたり、マナーの良いを富裕層ターゲットにPRするなどの工夫がなされています。

G20会合で議論もされた

ただし、上記対策だけで課題が解決しているわけではありません。世界各地の観光地では、今なお観光公害対策に頭を悩ませています。

そこで、2019年10月に開かれた20カ国・地域(G20)観光相会合では、成功した対応策を世界各国で共有することの重要性が確認されました。今後の具体的な観光公害対策向上に期待がかかります。

観光経済の享受と観光公害対策の両立

ここまで解説したように、訪日観光客の増加により観光公害も増加しています。しかしながら観光需要による経済は貴重な収益源であるため、引き続き延ばしていく必要があります。

同時に起こる観光公害対策を具体的にしていかなければなりません。G20会合で議論もされたように、世界中の成功事例を参考に、抜本的な対策が急がれています。