通訳を依頼する際に知っておきたい基礎知識|種類・仕事内容・相場を解説

通訳とは言葉が異なる人同士でコミュニケーションのサポートを行うことです。よく目にする通訳は芸能人やスポーツ選手のインタビューや、海外のニュース速報などがあるので、通訳はどのようなことを行っているかお分かりだと思います。

通訳と言っても実は一つだけではなく、旅行・商談・会食などのさまざまなシーンによって、通訳の種類・手法・通訳者のレベルやスキルをしっかりと選ばなければなりません。

しかし通訳を依頼したいと考えた時、「どのような通訳者を選べばいいのか」「そもそも通訳にかかる費用はいくらくらいなのか」と悩む方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では意外と知られていない「通訳の種類や仕事内容の基礎知識」「通訳にかかる相場」について解説していきます。

通訳を依頼しようと検討している方、インバウンド客向けにスムーズなコミュニケーションを取りたい方、自社で求人募集を行いたい方、にも参考になるので、ぜひ最後までご覧ください。

通訳業務における3つの手法

通訳といっても一種類だけではなく、「逐次通訳」「同時通訳」「ウィスパリング通訳」の3つの手法があり、シーン別によって使い分けられます。それぞれどのような特徴があるのか紹介していきます。

手法①逐次通訳

「逐次(ちくじ)通訳」とは話し手が1文~2文程度の区切りが良いところで話すのを止め、通訳がその文を訳し、話し手と通訳者がそれを交互に繰り返していく方法です。通訳者が全て訳し終えてから、話し手が次の言葉を発するのが特徴です。

話し手と通訳者のどちらかのみが話しているので、全ての言葉を通訳するのに同時通訳の約2倍の時間はかかりますが、スピードよりも話し手が話す言葉の詳細や正確さの方が重要となる通訳に向いています。そのため話し手の大事な情報を逃さぬよう、通訳者はメモを取りながら通訳する人もいます。

≪逐次通訳が使われる主な利用シーン≫
商談、会議、講演会、人事研修、工場や施設視察、インタビュー、VIPアテンド、表敬訪問、セミナー、製品発表会

≪通訳に必要な人数≫
半日以内であれば1名、それ以上であれば2名~3名で行う

≪必要なスキル≫
話し手と通訳者が交互に話すことでどうしても時間がかかってしまうため、聞き手が飽きないような語彙力や、素早くメモを取るノートライティングスキルが必要

手法②同時通訳

「同時通訳」は話し手と通訳者がほぼ同時に話す方法で、リアルタイムで会話のやりとりや進行を行っていくことが可能です。「ほぼ同時」というのは話し手の話を聞いてからでなければ訳せないため、若干のタイムラグが生じるためです。同時通訳の特徴は通訳者が通訳ブースと呼ばれる機械などが設置された専用の部屋に入り、話し手の声をヘッドフォンを通して聞きながら目の前のマイクで通訳をしていきます。

さらに通訳している間にも話し手の声を聞いているため、高い集中力と理解力が必要です。神経を尖らせて通訳を行っているため、通訳者は2名~4名前後のチームを組み、15分ほどで交代しながら通訳していくことが一般的です。

≪同時通訳が使われる主な利用シーン≫
商談、国際会議、社内会議、人事研修、講演会、株主総会、ディスカッション、インタビュー、製品発表会

≪通訳に必要な人数≫
15分~20分程度で交代する。半日であれば2名、丸一日かかるようであれば4名程度で行う

≪必要なスキル≫
言語能力、相互の文化・歴史・習慣などを理解した上で言葉の意図を理解する瞬発力、聞くことと話すこと両方を維持する集中力

手法③ウィスパリング通訳

「ウィスパリング通訳」のwhisper(ウィスパー)とは英語で「囁き声・ひそひそ話・小声」の意味で、会話の邪魔をしない程度に、話し手の隣で囁くような声で通訳する手法です。同時通訳と同じで話し手と通訳者が同時に話をするため、タイムラグはほぼありません。しかし専用ブース内で通訳するのではなく、通訳者の隣に立って(または座って)ヘッドフォン無しで直接声を聞きながら通訳するのが特徴です。

≪ウィスパリング通訳が使われる主な利用シーン≫
少人数の商談、少人数の国際会議、意見交換会、インタビュー対応

≪通訳に必要な人数≫
1時間程度であれば1名、半日であれば2名、丸一日かかるようであれば3名~4名程度で行う。

≪必要なスキル≫
通訳以外の雑音の中から生音を聞き分ける集中力、テンポよく話すための瞬発力

目的別5種類の通訳

通訳の仕事は目的別に種類があり、その種類によって仕事内容は大きく異なります。仕事の種類は大きく分けて「ビジネスシーンでの通訳」「エンターテインメント通訳」「コミュニティー通訳」「通訳ガイド」「プライベート通訳」の5つがあります。

オリンピックや訪日外国人旅行者増加に伴い、「コミュニティー通訳」「通訳ガイド」「プライベート通訳」の需要が高まってくることでしょう。それぞれどのような仕事内容なのか紹介していきます。

種類①ビジネス通訳

■ビジネス通訳

「ビジネス通訳」は商談、展示会、社内ミーティングなど、ビジネスシーンで用いられる通訳です。言語力だけでなく、取扱っている商品やサービスの用語などの専門用語も通訳する必要があります。また営業利益に左右するような重要な場面もあるため正確な通訳と言い回し、対象国や地域のビジネスにおける文化やマナー、習慣までも理解しておく必要があります。

■会議通訳

「会議通訳」は国際会議、サミット、講演会、シンポジウム(討論会)などで用いられる通訳です。会議や討論の場面では長時間にわたる可能性や重要な決定事項に関わることも多いにあるため、高い集中力と経済・IT・医学などの専門分野の知識が必要となります。また正確かつ細かいニュアンスまで伝わるような意思疎通を図ること、スピード力、技術力も求められるため、通訳者は知識と経験が豊富なトップクラスの人のみが担当することとなります。

■アテンド通訳

「アテンド通訳」は海外からの来日者に随行することから「随行通訳」とも呼ばれており、日本国内での移動・行動などに同行して、送迎・買い付け・視察などのサポートを行う通訳です。専門知識などはそこまで高くないものの、移動中の会話・時事ネタ・相手の好みなどを把握して快適に過ごせるようなおもてなしと、高いコミュニケーションスキルが必要です。

■放送通訳

「放送通訳」は海外ニュースや現地からの速報中継など、国内メディア番組向けの通訳です。速報など瞬時に分かりやすくニュース情報を通訳しなければならないため、豊富な知識・語彙力・冷静さ・即応力・技術力などが求められます。

種類②エンターテインメント通訳

■エンターテインメント通訳

「エンターテイメント通訳」は別名エスコート通訳とも呼ばれ、海外のミュージシャン、スポーツ選手、俳優・女優などエンターテイメント業界の有名人を対象に通訳することです。俳優・女優が出演している映画の字幕通訳や舞台関係などで担当している通訳者は作品のことを把握しているため、優先的にエンターテイメント通訳で起用されることが多いです。エンターテイメント通訳の場合、正確な通訳よりも、話し手の雰囲気や言葉のニュアンスを伝える表現力の方が重要となります。

種類③コミュニティー通訳

■行政通訳

「行政通訳」とは海外から日本へ来日しばかりや日本語能力が低く、手続き方法などが分からない人向けに、市・区役所や福祉施設などの行政手続きサポートを行う通訳です。高い語学力は必要ない仕事ですが、日本人でも理解が難しい行政システムや手続きに関する把握が必要となります。

■医療通訳

「医療通訳」は病院や薬局などの医療に関わるシーンで、外国人患者の症状、医師や薬の説明などコミュニケーションをサポートする通訳です。誤った通訳は命にかかわることにも繋がってしまうため、医療専門知識や正確さはもちろん、緊急時の身体のダメージや重要な手術などのさまざまな現場でも冷静でいることが求められます。

■学校通訳

「学校通訳」は外国籍の子供や保護者と学校側で、円滑なコミュニケーションをとるためのサポート通訳です。日本語でのコミュニケーションが難しい人、学校制度を理解していない外国人向けに、入学・転入手続きや三者面談などの場面で活躍します。

■司法通訳

「司法通訳」は法廷通訳と警察通訳の2種類があり、日本語が分からない外国人が警察署での取り調べや捜査現場、裁判での弁護人、刑務所などで通訳を行うことです。言い回し・言葉の表現・文脈など細かなニュアンスの通訳誤りで、判決や処分に大きな差が出てしまうことから、通訳の正確性・法律の知識・語学力・高度な技術が求められます。

種類④通訳ガイド

「通訳ガイド」は訪日外国人旅行者に対して、観光地や日本の文化や歴史などをガイドしながら通訳することです。通訳ガイドになるためには国家試験に合格した通訳者のみがガイドが可能でしたが、通訳案内士法が2018年1月4日に改正されたことによって、資格を持たない人でもガイドができるようになりました。観光地の知識や案内はもちろん、日本の文化・習慣・経済に至るまで幅広い知識が必要となります。

「通訳ガイド」や難関国家試験が必要な「全国通訳案内士」について詳しく知りたい方は、下記の記事もぜひご覧ください。
▶超難関の通訳案内士とは?添乗員・通訳との違いや仕事内容を徹底比較

種類⑤プライベート通訳

「プライベート通訳」は団体旅行ではなく個人旅行(FIT)で訪日している外国人旅行者に対して、ガイドやツアーのアテンド、国際結婚での家族間のコミュニケーションなど、プライベートで必要な通訳です。旅行中の事故や事件で、家族や知人などに伝達する際の通訳も行います。

通訳を依頼する際の価格の相場

通訳は言語の違いや通訳者の実績、専門分野などによっても料金は異なります。また通訳者を外注する場合「通訳・翻訳の専門会社」と「フリーランス」の2つに分けられますが、依頼する条件が一緒でも依頼先によっては料金の差があることを理解しておきましょう。どのくらいの料金相場なのか、例を紹介していきます。

通訳の依頼先は

通訳を依頼する際は「通訳・翻訳の専門会社」と「フリーランス」の2つの種類に分けられます。

「通訳・翻訳の専門会社」は会社や個人の実績、専門性、専用機材の用意などを特化していることが多いです。豊富な人数を抱えている会社は、経験が浅いが価格を抑えられるCクラス(レベル)、実績や経験豊富で専門分野に強いSクラスの通訳者など、幅広く揃えていることもあります。政府の要人や国際会議など特殊な専門分野に特化している実績を持っている場合、一般的な通訳会社より割高になる傾向があります。

「フリーランス」は旅行者を案内する通訳ガイドに多いです。フリーランスの通訳者のプロフィールが記載されたホームページやWebサイトなどで、実績や対応可能な言語などを確認して依頼することとなります。通訳の種類や職種にもよりますが、通訳・翻訳の専門会社と比べて割安になる傾向があります。

通訳会社の価格の違いとは

通訳を依頼しようと考えた際に、通訳会社のホームページなどから費用を確認することが多いことでしょう。その際に、通訳会社によって費用に大きな差がある理由は、「経験実績・年数(クラス)」+「専門分野」で大まかな価格が設定されていますが、その他にも下記のような細かい内容によってによって大きく異なります。

  • 3種類の手法(逐次通訳、同時通訳、ウィスパリング通訳)
  • 専門分野/業種/シーン別
  • スキル/レベル/通訳歴(クラス)
  • 言語/地域の種類
  • 日程/通訳時間(事前打ち合わせも含める)
  • 出張費/移動費/宿泊費の有無
  • 通訳者の人数
  • 機材費/設備費

通訳の価格相場

依頼したい内容によって費用は大きく変わりますが、一般的にどのくらいの通訳費用がかかるのか例を紹介していきます。

≪英語通訳の場合≫

通訳手法      シーン・分野               クラス  価格    
同時通訳 国際会議、株主総会、インタビュー Sクラス
Aクラス
Bクラス 
3.5万円/時間
3.0万円/時間
2.5万円/時間
逐次通訳 商談、会議、講演会、人事研修 Sクラス
Aクラス
Bクラス 
2.0万円/時間
1.8万円/時間
1.5万円/時間
ウィスパリング通訳 インタビュー、国際会議、商談、意見交換会 Sクラス
Aクラス
Bクラス 
2.5万円/時間
2.3万円/時間
2.0万円/時間

「スキル/レベル/通訳歴(クラス)」は通訳会社によって設定ランクは異なりますが、おおむね以下の通りです。

「Sクラス」:実務歴15年以上で多数実績あり。法律、医療、金融などの特殊な専門分野に特化
「Aクラス」:実務歴10年以上で多数実績あり。幅広い業種が対応可能
「Bクラス」:実務歴5年以上でビジネスシーンも対応可能
「Cクラス」:実務歴3年以上で日常会話やアテンドが可能

通訳を外注する際に気をつけるべき3つのこと


コミュニケーションを取る通訳は通訳者の言葉一つで伝わり方に大きく差が出てしまうため、シーン別によっては慎重に選ばなければなりません。具体的にどのようなことに気をつけて通訳を依頼すればいいのか3つ紹介していきます。

①対応言語に沿った通訳が可能か

依頼したい言語と通訳者の得意な言語を合わせることです。例えば英語での通訳依頼をする場合、アメリカ英語・イギリス英語・オーストラリア英語では用いる単語や発音に大きな差があります。中国の場合も地域によっては方言の違いから発音や単語が大きく異なるので、「どの言語」で「どの国・地域の人を通訳したいのか」確認しましょう。

②言語スキル・レベル

日常会話が必要な言語と、国際会議や商談などの言語では、スキルやレベルに大きな差があるので、シーンにあった通訳者を採用する必要があります。言語レベルによって費用も異なるので、依頼したいシーンでは「日常会話、ビジネス、ネイティブ」のどのレベルが必要なのか把握しておくことが好ましいです。

③どれだけ専門知識を持っているか

法律や規制など国や地域、業界などが変われば、使用される言葉や専門用語は異なります。ビジネスでの決断や裁判など難しい通訳シーンは特に、「ニュアンス・雰囲気・文脈」を上手く伝え、「高度な技術力・語彙力」などを持った通訳者に依頼することが大いに重要となります。

通訳は一種類だけではない

この記事では「通訳の種類や仕事内容の基礎知識」と「通訳にかかる料金相場」について解説しました。外国語から日本語へ、日本語から外国語へ言語を変更するだけが通訳ではありません。国際会議、ビジネス、旅行、プライベートなどシーンによって仕事内容や技術は大きく異なるのです。

通訳者を依頼したい、または募集したいとお考えの方は、まずどのようなシーンでどのような手法で行いたいのか整理してみましょう。

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