2022年6月10日に外国人観光客の受け入れが、2年2カ月ぶりに再開されました。
訪日外国人にとって円安の影響で日本旅行を安くできるチャンスがあるため、赤字になりながらもなんとか耐えてきた旅行関連業界では大きな期待がされています。そのため、外国人観光客を受け入れるための準備が急ピッチで進めている事業者も多いでしょう。
しかし、入国や訪日旅行中の厳しい規制など、コロナ以前とは大きく異なるルールを旅行者・事業者も理解しなければなりません。
そこで今回は、
・コロナ禍かつ円安においてインバウンドではどのような影響を与えるのか
・円安で良いチャンスを掴むために重要なポイント
について解説していきます。
円安でのインバウンドの影響とは
まずは、良くも悪くも、円安がどういった影響を与えるのかについてみていきましょう。
安くお得に旅行ができることから「爆買い」再来に期待
外貨をもって入国した訪日外国人にとって、円安の影響でとてもお得にショッピングやグルメを楽しむことができます。
例えばこれまで1度の訪日旅行で5日間20万円使っていた人は、今回の円安で7日間30万円のように、旅行期間や旅行費用を拡大させる使い方が可能です。
2015年から2016年頃にかけて、自分用、親族や友人達に配る用、転売用と日本製品を大量に購入していた中国人観光客の姿が話題となった「爆買い」という旅行スタイルが流行りました。
小売店では1ヶ月の売上を1日で達成するほど大量大量に買い込んでいたとしてさまざまなメディアで話題となっていました。
現在ではモノより体験に価値を置くスタイルへと変わっていったものの、円安によって爆買いが再来すると予想されます。
コロナ禍によって海外からの集客ができず、長期間経営が厳しい状況となっていましたが、爆買いが再来することで売上アップにつながります。
インバウンドの受け入れ再開が本格化することで、宿泊業や移動業などの旅行関連のインバウンド消費額も潤っていくことでしょう。
制約が厳しく気軽に訪日旅行しづらい
安くお得に訪日旅行ができるものの、入国のための手続きや制約付きのツアーなど、気軽に訪日旅行ができるわけではありません。
日本では2022年6月10日から2年2カ月ぶりに、外国人観光客の受け入れが開始されました。(水際対策のため、一部の国と地域からの入国する外国人観光客に限定)
しかし、観光庁が出した「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」を満たさなければ、入国や旅行が難しい状況です。
このガイドラインは入国前の入国者健康確認システム「ERFS」へのツアー参加者の登録・申請や、添乗員をツアーの全行程に付ける必要があるなど、守るべき細かな内容が設定されています。
つまり、管理型の旅行でフリータイムがないことから、息苦しさを感じてしまう人は訪日旅行を諦めてしまい、結果的に旅行者の数が少なくなってしまいます。
参考:観光庁「令和4年6月10日以降の外国人観光客の受入れ開始について」
外国人観光客の受け入れ対応の難しさ
先ほど、「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」を満たさなければ、外国人の入国や旅行が難しいとお伝えしましたが、これは旅行会社にとっても厳しい状況となっています。
ガイドラインに沿った細かな内容を理解しつつ、ツアー客や取引先である海外の旅行会社とのやりとり・手配をしなければなりません。
そのため、いくら入国制限が緩和となっても、100人、1000人と簡単に迎えるのは難しいと言えます。
円安が続くとインバウンド業界はどうなるのか
一時的な円安ならまだしも、長期間円安が続いていくとどうなっていくのでしょうか。
食料品や電気代などの上昇
輸入された食材や電気代などが高騰し、外食業や小売業にマイナスの影響が働いていきます。
燃料の高騰もあるため仕入れ値も上がり、各業種影響されてしまうのが現状です。企業だけでなく、個人の生活にも影響を及ぼしています。
お客様のためとしてこれまで通りの価格で提供したいという思いはあっても、商品やサービスの値上げを検討せざるを得ない状況となるでしょう。
「安い国=日本」イメージ、そしてオーバーツーリズムへ
日本人にとって物価が安く、旅費を抑えられる国は、タイやマレーシア、フィリピンなどの東南アジアがあげられます。
これらの国に期待するのは物理的に距離が近く、温暖な気候だからといった理由も人気となっていますが、多くは「物価の安さ」ではないでしょうか。
円安の今は、「物価の安い国=日本」として見られています。外貨を持って来日すると、以前に来日したことのある外国人にとって、現在の日本は製品やサービスの安さに驚くはずです。
円安が長期的に続き「物価の安い国=日本」というイメージが定着してしまうと、客層の変化や日本ブランドが損なうこと、そしてオーバーツーリズムへとつながっていきます。
オーバーツーリズムとは観光地に対して、キャパシティ以上の観光客が押し寄せることです。観光客の過度な増加によって、地元住民の生活や自然環境、景観などに悪影響を及ぼし、混雑や騒音、マナー違反、トイレ不足といったインフラまで、さまざまな問題が生じてしまいます。
観光資源が安く買われるリスク
日本には世界中の人を魅了する観光資源が多数存在します。
海外投資家にとって日本の観光資源は安く購入できるということなので、日本国内だけでなく海外旅行者からの人気も強い北海道や沖縄などのエリアで、不動産の購入や日本企業が買収される可能性が高まります。
例えば中国が日本の観光資源の買いが進むと、インバウンド業界が潤っていっても、最終的に中国企業や中国投資家への利益につながるという現象になってしまいます。
外国人労働者の不足
外貨を持って訪日する外国人にとって円安はメリットとなるものの、日本へ出稼ぎに来ている外国人にとっては生活が困難な状態となり、帰国の選択が迫られています。
これまで日本で1ヶ月働いた給料は、外国人労働者の母国では3ヶ月以上生活することができる国もあります。そのため長期間日本で働いて家族を助けたいと思っていても、円安による物価の高騰の影響で、仕送りが少なくなってしまうのです。
介護や建設、自動車部品などの業界では外国人労働者に助けられて運営してこれました。しかし、賃金の低さと物価の高騰で、外国人労働者が日本を選ばなくなってきているため、賃金を上げたり物価の高騰を抑えるなどの対策をしない限り、経営が厳しい状況となっていくでしょう。
円安を追い風にするために重要な「高付加価値化」
日本での生活を苦しませている円安ですが、旅費を安くできるのでインバウンドにとっては追い風となっています。とはいえ、「安い国=日本」が定着することを避けなければならないことから、インバウンド全体で高付加価値を高めていく必要があります。
モノやサービスの価格をただ上げると訪日外国人の満足度は下がってしまいます。そのため、日本の魅力を改めて発掘し、ニーズに合わせた新しいサービスを提供することが必要です。
また、訪日旅行の需要は高くても外国人観光客の受け入れ条件が厳しいことから、日本旅行を諦めてしまうことになりかねません。受け入れ人数を大幅に拡大することが難しい今だからこそ、「数から質へ」転換していく考え方も重要なポイントとなっていくことでしょう。
まとめ
今回は、円安でインバウンドにどのような影響を与えるのか、円安で良いチャンスを掴むために重要なポイントについて解説しました。
コロナ禍以前のように「訪日観光客でにぎわう景色をまた見たい」と感じる事業者は多いと思いますが、円安の影響で観光地の雰囲気が崩れることが懸念されています。
訪日観光客数だけにフォーカスするのではなく、付加価値の高いサービスを提供することで「満足度をあげる=経済状況が潤う」ような追及にシフトしていくことで、リピーターや新規観光客へとつなげていきましょう。