ホテルや旅館業よりも許可が取りやすい管理宿泊所は、俗にいう民泊とは異なります。実は、宿泊施設の業態は4つの種類があり、民泊はこれらに含まれないグレーな業態です。この記事では宿泊施設の業態や、簡易宿泊所と民泊の違いを紹介した上で、簡易宿泊所のメリットデメリットを解説いたします。
宿泊施設は4つの種類がある
宿泊施設の営業をする場合には、旅館業許可を取る必要があり、その内容は業態によって異なります。日本における宿泊施設の営業内容は以下の4種類となっています。
(1)ホテル営業洋式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業である。
(2)旅館営業 和式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業である。いわゆる駅前旅館、温泉旅館、観光旅館の他、割烹旅館が含まれる。民宿も該当することがある。 (3)簡易宿所営業 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を設けてする営業である。例えばベッドハウス、山小屋、スキー小屋、ユースホステルの他カプセルホテルが該当する。 (4)下宿営業 1月以上の期間を単位として宿泊させる営業である。 引用元:厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei04/03.html |
簡易宿泊所の位置づけを把握するため、それぞれの内容をサラッと把握しておきましょう。
1.ホテル営業
ホテル営業は洋式の建物や設備をメインとしており、客室や浴室のほか、ロビーや食堂、調理場などが必要となります。もしもこれら必要な設備が足りない場合や、衛生基準に満たない場合には、許可を取ることができません。
2.旅館営業
旅館営業は、和式の施設をメインとしており、温泉旅館だけでなく、料理旅館や民宿なども含まれる場合があります。2017年の法改正前までは、ホテルと旅館で種別が異なりましたが、法改正後は旅館・ホテル営業に統合され、「簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの」と定義が変わっています。
3.簡易宿所営業
簡易宿泊は、宿泊場所を多人数で共有するような施設営業を指します。分かりやすい例でいえば、山小屋やユースホステル、カプセルホテルなどがこれに該当します。また、旅館の場合でも、大部屋で多人数が宿泊する場合には、簡易宿泊所とみなされます。
4.下宿営業
1カ月以上の単位で施設を提供し、宿泊料をもらう場合には下宿営業となります。一般的にいうと、月極め契約で部屋を借りてもらうことで、そのための施設です。
簡易宿泊所は旅館・ホテルより基準が軽い
当記事のテーマである簡易宿泊所は、旅館・ホテル営業よりも旅館業許可取得の基準は軽いです。民間が宿泊業を行う際には、ホテル営業や旅館営業が理想かも知れませんが、許可取得のハードルが高いことや、規制や法律が厳しいため、非現実的となります。
しかし、簡易宿泊所営業の許可を取得すれば、旅館やホテルまでとはいかないまでも、宿泊業を行うことが可能です。
簡易宿泊所と旅館・ホテルの基準比較
管理宿泊所と「旅館・ホテル」の基準は具体的にどう違うのでしょうか?厚生労働省の医薬・生活衛生局生活衛生課(2018年6月)の基準を元に比較表で紹介します。
旅館・ホテル営業 |
簡易宿所営業 |
|
客室床面積、延床面積 | 1部屋7㎡ | 33㎡以上(宿泊者10人未満の場合) |
フロント | 宿泊者との面接に適するフロントや代替設備必要 | 規制なし |
入浴設備 | 適当規模の入浴施設を有する | |
換気など | 適当な換気、採光、照明、防湿、排水設備を有する | |
その他 | 都道府県が定める構造設備基準に適合すること |
民泊新法の利用もアリ
旅館業許可とは別物ですが、民泊新法(住宅宿泊事業法)にて営業するという方法もあります。民泊新法は住宅宿泊事業者、住宅宿泊管理事業者、住宅仲介業者が対象となっているガイドラインで、宿泊施設を貸す場合は都道府県知事へ、管理人をする場合は国土交通大臣へ、仲介人は観光庁長官への届出が必要です。
民泊新法は簡易宿所営業に比べ、非常用照明や消防設備などの制限が軽く、許可の条件も緩やかです。ただし、営業日数が年間180日以内となっており、営業の制限が厳しくなっています。
特定エリアの特区民泊
国家戦略特別区域であり、なおかつ自治体が条例で定ているエリアに関しては、旅館業法が適用されません。これらのエリアは、地域振興などを目的に、規制緩和されています。
特区民泊の場合は民泊新法のような180日制限などがありませんので、営業がしやすくなっています。ただし、宿泊日数が2泊3日以上という条件がついているという違いがあります。また、簡易宿泊所や民泊新法の客室面積が3.3㎡であるのに対し、特区民泊は25㎡という違いもあります。
簡易宿泊所の申請方法
管理宿泊所の申請方法は、「事前相談」「距離証明」「許可申請書の提出」が必要です。事前相談は、各地方自治体の保健所や担当課に相談しましょう。手書きでも構いませんので、予定施設の図面の持参が必要です。
事前相談にて、施設基準に合っているかや都市計画法、建築基準法、消防法を満たしているかアドバイスしてもらえます。
その後、距離証明の手続きをします。予定施設と近隣の学校間の距離を測るのが距離証明で、1カ月程度の時間が必要となります。距離証明の申請は、予定施設の平面図や立面図などのほか、縮尺1/3000以上の地図の提出が必要です。
これらが済み次第許可申請書を提出します。予定施設の準備が済み次第、申請書と添付書類を担当部局に提出します。具体的な提出書類は以下のとおりです(役所によって異なる場合あり)。
- 営業施設の構造を明確にする図面
- 付近の見取図
- 定款又は寄附行為の写し(法人のみ)
- 健康保険組合、管理組合法人、宗教法人の規約の写し
- 洗面用水の水質検査成績書(写し)
- 浴用水の水質検査成績書(写し)
申請が済み次第、後日現地調査がなされ、申請日翌日から15日以内に許可か不許可の決定がなされます。許可が下りれば許可指令書が交付され、営業可能となります。
簡易宿泊所と民泊は違う!
簡易宿泊所と聞くと、民泊をイメージする方が多いかも知れません。しかし、簡易宿泊所と民泊は全く意味合いが異なります。では、具体的にはどのように違うのでしょうか?
民泊という旅館業許可はない
簡易宿泊所は旅館業法に定める規定ですが、民泊という旅館業許可はありません。つまり、俗にいう民泊と呼ばれるものは、届け出をしていない違法な宿泊施設のことを指します。許可を得ている場合には簡易宿泊所となりますので、この違いは知っておく必要があります。
ちなみに、類似の業態で民宿がありますが、民宿も簡易宿泊所に該当します。
そもそも許可制度がある理由
そもそも、なぜこのような許可制度があるのでしょうか?それは、宿泊事業の性質によります。宿泊施設には不特定多数の人が出入りするため、整った設備や管理ができていないと、犯罪の温床となる可能性があります。
また、災害に対応した設備でないと、死傷者が拡大しかねませんので、厳正なルールに基づいた許可制度があるのです。
簡易宿泊所のメリットデメリット
民間における宿泊施設営業にあたって、簡易宿泊所は良い方法ですが、営業にはメリットとデメリットがあります。宿泊施設営業に携わる方はぜひ参考にしてください。
簡易宿泊所のメリット
簡易宿泊所のメリットは、法律に乗っ取った旅館業許可であるため、正規事業者である安心感を持ってもらえます。民泊のような違法営業の場合、地域住民や同業者からの苦情に晒されるほか、厳しいペナルティー(100万円以下の罰金など)を受ける可能性がありますが、簡易宿泊所は堂々と営業ができます。
宿泊日数制限もないほか、大手宿泊サイトに登録できますので、集客がしやすいというメリットもあります。
簡易宿泊所のデメリット
簡易宿泊所のデメリットは、特区民泊よりも許可取得の難易度が高いところです。都道府県などの旅館業法担当に相談し、保健所で申請したのち、保健所職員らの立ち入り検査が必要です。
申請には、施設の図面や条例で定めた書類などの提出が必要です。書類の内容は都道府県ごとに異なりますが、いずれにせよ、許可取得までに一定の時間と労力が掛かかります。
簡易宿泊所は営業しやすい業態
簡易宿泊所はホテルや旅館業よりも許可が取りやすい上、民泊新法や特区民泊よりも営業しやすい業態です。民間リゾート事業を行う上で、現実的な方法だといえるでしょう。
正規事業者として堂々と営業できたり、大手宿泊サイトに掲載しやすいなどのメリットがありますが、民泊新法や特区民泊より許可取得のハードルが高いというデメリットがあります。メリットデメリットのバランスを踏まえて簡易宿泊事業に取り組む必要があるでしょう。