若者や外国人に人気の「農泊」とは?成功事例や導入すべき理由も解説

農産漁村地域に宿泊し、日本ならではの伝統的な生活体験ができる「農泊」。国内だけでなく海外からの旅行者の中でも話題となっているってご存じですか?

地方部に住む地域住民にとって「ここは田舎だから、何もない町・村なんだよね」と嘆いていても、都市部に住む人達にとっては「自然溢れる魅力的な場所」と真逆のことを感じているものです。

そして、「日本らしい伝統的な体験がしたい」と思っていることも多いです。

そこで今回は、地域資源を活用した食事や体験を提供する「農泊」について、どういった点が旅行者にとって魅力的なのか、農泊の導入を推薦している理由は何なのかなど解説していきます。

  • 少子高齢化が進み活気がなくなってきている
  • 空き家や廃校も増え、人との交流や地域の収入まで低下している
  • 体力的に農業や漁業をやめようと考えている
  • 若い人たちや旅行者が訪れる町に変わっていけたら嬉しいけどな

とお悩みの事業者や地方に住む地域の方、観光関連の方はぜひ最後までご覧ください。

 

農泊とは

「農泊(のうはく)」とは農産漁村地域に宿泊し、日本ならではの伝統的な生活体験や、農村地域住民との交流、地域資源を活用した食事・体験を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」 のことを指します。

農家そのもの、農家の民宿、古民家、廃校などを活かして宿泊施設にすることで、旅行者のニーズにあった宿泊手段を用意します。

都市と農村漁村それぞれに住む人々がお互いの地域の魅力を分かち合い、「人・もの・情報」の行き来を活発にする取組です。

農泊に取組目的とは

農泊の取組目的はいったいどういった点があげられるのでしょうか。取組前後の農産漁村地域に住む人の声を見ていきましょう。

農泊取組前の状況(このままでは…)

  • この辺は何もないところだし、観光客はこないところだよ
  • 空き家が年々多くなってきているなぁ
  • 子供たちは体験に来てくれるものの、春と秋だけに限定されるんだよな
  • 農家民宿の経営は体力的にきついし、今年限りかな
  • いいところだと思うけど、旅行者にアピールできるようなところは何かな
  • 観光客がたまにしかこないから収益が上がらず、協力農家も年々減っていくし、新たな観光客の受入れもままらないよ

農泊取組後の結果(将来展望は…!)

  • 田舎にいて外国人と交流できるなんて不思議だね
  • 先月は30万円も売り上げがあった
  • この前ウチに泊まりにきた若者が移住してきてくれた
  • 若者が地域の皆を盛り上げてくれるからありがたい
  • 村の人口が増えて、建物の建築・改修需要が増えた
  • 以前と比べて耕作放棄地もずいぶん減ってきたな

農泊を取組むことの目的・得られるメリット

地域資源を観光コンテンツとして活用することで、国内観光客だけでなくインバウンド観光客を農山漁村地域に呼び込み、地域の活性化や所得向上につなげることを目的としています。

農泊事業を行うことで、農村漁村地域へのメリットはさまざまあげられます。

・観光客の増加
・地域の所得の向上
・農家所得の向上
・移住者の増加
・古民家や廃校校舎などの有効活用
・定住や半定住などの新たなライフスタイルの実現
など

農泊の取組状況は

農泊の取組状況はいったいどれくらいなのでしょうか。採択した全国515地域を対象に、2017年から2019年に調査したデータを見ていきましょう。

・宿泊者数
・宿泊施設数
・体験プログラム数

それでは順番に紹介します。

宿泊者数

農泊地域における宿泊者数は2017年の503万人泊から、2019年の589万人泊で、約1.2倍の86万人泊増加。

内訳は以下のとおりです。
国内旅行者は474万人泊から551万人泊で、約1.2倍の約77万人泊増加。
インバウンドは28万人泊から37万人泊で、約1.3倍の約9万人泊増加。

宿泊施設数

国が支援して整備した古民家は2017年の16軒から、2019年には100軒で、約6.2倍の増加。

個人旅行者のニーズにも対応した農家民宿の数は、2017年の3,175軒から、2019年の3,715軒で、約1.2倍に増加。

体験プログラム数

体験プログラム数は2017年の4,652件から、2019年の8,208件で、約1.8倍に増加。

食事メニュー数は2017年5,623件から、2019年の9,419件で、約1.7倍に増加。

出典:農林水産省「農泊をめぐる状況について」令和3年1月

農泊の推進

近年の旅行スタイルでは、日本国内での旅行者・訪日外国人観光客にとっても、地方部への需要が高まってきています。そして、日本文化を体験できる場所として地方を訪れることで、地方地域の活性化や地域・農家の収入増加につなげていくことが可能です。

そのため、農林水産省は農泊の取組を推薦し、さまざまな支援を行っています。農泊推進事業の情報については、以下のページより詳細をご確認ください。
農林水産省「『農泊』の推進について」

インバウンドで農泊が注目されているワケ

先ほど農泊地域における宿泊者数が、国内外の観光客の両方で増加しているとお伝えいたしました。

では具体的に、訪日外国人にどのくらい地方の需要があるのか、日本らしい体験に興味を持っているのかについて解説していきます。

地方部への宿泊者数の増加

まずは都市部と地方部と宿泊者数の割合を見ていきましょう。

農林水産省の資料によると、東京都・埼玉県・千葉県などの大都市部の外国人宿泊数は2013年から2018年で約2.4倍の5,223万人泊となっています。

一方で、地方部への宿泊者数は2013年から2018年では約3倍の3,636万人泊と、都市部より増加率が高くなっていることが分かります。

出典:農林水産省「第3節 農泊の推進」

過去5年間の延べ外国人宿泊者数の増加率を都道府県別に見ると、青森県、山形県、山梨県、岡山県、香川県、佐賀県では4倍以上の増加状況となっています。

3倍以上4倍未満の都道府県も地方部に多くなっています。

訪日外国人の消費行動を分析

続いては、訪日外国人の消費行動を見ていきましょう。

新型コロナウイルスが世界中に感染する前の年、2018年4月~6月の報告書では、訪日外国人旅行者の6%が「⾃然体験ツアー・農漁村体験」を実施したと回答し、次回体験したいと答えた⼈は15.1%にのぼります。

そして、今回の訪日旅行で「⾃然体験ツアー・農漁村体験」を実施した人のうち満足した人の割合は93.8%と非常に高いことを表しています。

そのため、「⾃然体験ツアー・農漁村体験」を選択する率はまだまだ低いのが現状ですが、次回の旅行計画や満足度の高さから伸びしろは高いと言えるでしょう。

出典:観光庁「訪日外国人の消費動向」2018年4-6月期報告書

インバウンドの消費行動は以前、商品を大量に購入する爆買いといったように、モノの消費に価値を見出す「モノ消費」が多い傾向にありました。今でも初来日にはその傾向はあります。

しかし、現在の旅行スタイルや訪日リピーターでは、所有(購入)では得られない体験や思い出などに価値を置く「コト消費」や、その時・その場でしか体験できないことを楽しむ「トキ消費」という旅のスタイルへと変化しています。

つまり、体験型の観光が注目を集めていることから、「農泊を通じて日本の日常生活体験や、その土地ならではの日本食が堪能できるんだ」と正しくアプローチすることができれば、農泊の認知度や需要も高まってくると言えるでしょう。

インバウンド向けに農泊体験を提供する成功事例

農泊を提供する事業者は日本各地に存在します。ここでは、国内だけでなくインバウンド向けにも農泊のサービスを提供している事業者の成功事例を2つ紹介します。

事例①来園者の3割が外国人の「筑紫野いちご農園」(福岡県)

福岡県筑紫野市(ちくのし)の「筑紫野いちご農園」は、2006年に水田を転作し農園を開園した農家です。開園当初はハウス3棟で直売所への出荷が中心だったものの、2年目からは観光農園に切り替えました。

そして、収穫しやすいように高い位置に栽培ベッドを配置した高設栽培をしたり、車椅子の来園者も楽しめるよう通路を広くしたりと、顧客満足を重視した経営を行っています。

2013年から訪日外国人旅行者が増え始め、口コミや海外旅行会社からの紹介等もあったことで、2018年の来園者の3割は海外からの旅行者が訪れるまで広がっていきました。

外国人旅行者の誘致にはホームページや園内での多言語案内、観光農園の多言語での検索・予約を行っています。

お土産として購入する訪日外国人も増えていることから、検疫が簡易あるいは検疫不要な国と地域を中心に提供するというように、さらなる売上を伸ばすようなビジネスプランが設計されています。

お土産を受け取った人は、新規旅行者として足を運んでくれるきっかけにもつながるでしょう。

事例②教育旅行を中心に地域全体で取組む「株式会社大田原ツーリズム」(栃木県)

栃木県大田原市(おおたわらし)の「株式会社大田原ツーリズム」は、2012年に市と地元企業18社が出資して設立され、地元協議会と地域ぐるみの農泊を展開している事業者です。

中学・高校・大学などの団体教育旅行を受け入れ、農業体験や農家民宿などのプログラムを120以上を開発、2015年には持続的な経営の実現に向けて、収益率の高い企業向けのプログラムを開発しています。

その結果、2012年から2016年の間には農家民宿は0軒から160軒に、交流人数はは189人から8,351人に、1軒の農家当たりの売上げは50万円から100万円ほどまで向上された実績を誇っています。

また、農家民宿で訪れたベトナムの大学生は、「日本人はまじめで冷たいという印象だったが、とても心温かく、実の子のように接してくれた」と回答しており、地元の人と交流できる農泊ならではの新たな発見ができたと言えるでしょう。

参考:農林水産省「農泊の推進」

農泊関連のサイト3選

インバウンド向けに農泊を行っている事例を紹介しましたが、その他の地域・ジャンルではどういったものを展開されているのでしょうか。

全国各地を対象としている農泊関連のサイトを厳選して3つ紹介します。

①農泊ポータルサイト

「農泊ポータルサイト」は農泊に取り組む地域と、伝統的な生活体験や地元の人々との交流をしながら、農泊を体験したいユーザーをつなぐ情報発信サイトです。泊まる、楽しむ、味わうのテーマで魅力的な農泊プランが紹介されています。

②サトChef

「サトChef」は食コンテンツの開発等を通じて地域の活性化を図る農泊地域側と、地域の食材を活かした食コンテンツ開発に取り組むことができる料理・食のプロが繋がるためのマッチングプラットフォーム(繋がり合う場)です。

③のんびり農旅

宿泊、ツアー、航空券、レンタカーなど大手総合旅行サイト、楽天トラベルのサービスの一つとして展開されているのが「のんびり農旅」。農旅×プライベート、グルメ、体験、海・山と4つのテーマで農旅が紹介されています。

まとめ

今回は、地域資源を活用した食事や体験を提供する「農泊」について解説しました。

旅行者が多く訪れるようにアピールしていくためには、農家の日常を体験できる見せ方やサービスの購入を促す仕掛け作りなどが必要となってきます。外国人向けには多言語対応やSNSでの発信も重要となります。

地域全体でプロジェクトに取組むことで「持続可能な産業へ」、「旅行だけに限らず地域移住で人口増加へ」とつなげることにも期待できるでしょう。

 

農泊事業を取組むためには、大きな資金が必要となります。農林水産省では農泊推進事業の支援を行ってるので、ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。
農林水産省「農泊の推進」

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