中国の検閲システム、グレートファイアウォール(金盾)って?仕組みや回避する方法

「中国のインターネット事情について、詳しく知りたい」と考えていませんか?

中国国内のインターネット環境は、日本と大きく異なります。中国では、グレートファイアウォールと呼ばれる仕組みが確立されており、インターネットの利用にさまざまな規制がかかるようになっているのです。中国へ向けて情報を発信していきたいと考えている方であれば、グレートファイアウォールについて深く理解しておく必要があります。特に、インバウンド対策として、SNSやウェブを用いたマーケティングを行う上では、必須の知識と言えるでしょう。

この記事では、グレートファイアウォールとは何か、具体的にどのような情報が規制されているのか、について解説します。また規制を回避して中国国内からさまざまなインターネットサービスにアクセスするVPNと呼ばれる仕組みについても紹介します。

グレートファイアウォール(金盾)とは何か

グレートファイアウォールとは、中国国内のインターネットにおける情報を検閲・管理するシステムの総称です。万里の長城を意味する「グレートウォール」が語源となっており、中国語では金盾と表記されます。グレートファイアウォールを運用しているのは中国政府です。中国国内では、政府によって、インターネット上のあらゆる情報が制限されているのです。

1999年と早い段階から導入準備が進められたグレートファイアウォールは、2003年以降本格的にシステム稼働が開始されました。13億人以上にもなる中国国民のアクセスをすべて監視するため、非常に高度が駆使された大規模なシステムであると言えます。実際に開発には、マイクロソフトやオラクルなどの有名IT企業が関わっていると言われています。

グレートファイアウォールは、具体的に「検査員」による情報の監視・削除と、人工知能による自動監視によって成り立ちます。さらに中国の主要なプロバイダー(China Telecom, Unicom, Mobile)も、国内外へのアクセスを監視しています。

グレートファイアウォールによる検閲は、中国本土全域からのアクセスを対象としています。香港やマカオは独自の自治権を持つ特別行政区であるため、検閲の対象となっていません。

グレートファイアウォール(金盾)で規制されているもの

中国のインターネット上で規制されているサービスや投稿について解説します。

海外製のインターネットサービス

グレートファイアウォールによって規制されているため、中国国内から海外製のインターネットサービスにアクセスすることは、基本的に不可能です。例えば、以下のようなSNSは、すべて利用できません。

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • Google
  • LINE

日本で生活する上では、どれも当たり前のものとして利用するサービスばかりですが、中国ではこれらの利用は実質不可能となっているのです。国内から中国へ旅行に行く際などは、代替サービスの用意をしていなければ、困ることもあるでしょう。例えば、道に迷ってしまった際、Googleマップで検索しようとしても、Google製のサービスであるため、アクセスすることはできません。

もともとGoogleは2006年頃までは、中国国内でも利用できていました。過剰な情報規制に対し、中国政府に検閲のストップを要請してきたGoogleですが、それが実現することはなかったため、今では国内から完全に撤退しています。代わりに、国内企業による検索エンジン「百度」が、広く普及しています。

Facebookも、子会社を設立するなど中国への進出を図っていましたが、登記が一週間程度で抹消されるといった事態が起こり、国内市場から退きました。

政府にとって不都合な発言

中国国内では、インターネット上のあらゆる発言が監視されています。SNSの投稿内容などもすべてチェックされ、政府にとって不都合な内容や、批判的な投稿があった場合には、直ちに削除されます。

中国は中国共産党の統治下にあります。そのため、「民主化」などの政権体制を批判する内容はNGです。その他にも、「天安門事件」や「チベット問題」などのキーワードも検索そのものが不可能とされていると言われています。

また一部のブログや企業のサイト、特定の活動団体のホームページなども、アクセス自体が制限されていることもあります。

グレートファイアウォール(金盾)が実施されている理由

中国ではなぜここまで徹底した情報の統制が行われているのでしょうか。そもそもグレートファイアウォールは国家機密のシステムであり、その存在を中国当局が公式に発表したことはありません。そのため、実施の明確な背景は明かされていませんが、主に以下の2つが理由であると考えられています。

安定的な統治を行う

グレートファイアウォールで政府に批判的な投稿や情報を監視することで、国内を安定的に統治できるようになります。例えば、現政権のやり方に反対する活動団体の言動などが、インターネットを通して、波及していくことが考えられます。

特にSNSなどは、情報が驚くほどのスピードで拡散され、時にマスメディアよりも大きな影響力を持つこともあります。政権に批判的な情報が広まった結果、デモや反対運動などが起こることも十分考えられるでしょう。そこで、批判や国民を煽るような発言が拡散されないよう、あらかじめ抑えておくことで、デモなどの反体制活動を起こさせないようにしているのです。

国内のIT産業を保護する

グレートファイアウォールには、国内の産業を保護する目的があると考えられます。外資系企業が国内市場を独占すると、国内の産業発展を阻害することになります。実際にIT大国アメリカは、世界的にサービスを展開しており、世界の時価総額ランキングはアメリカの企業が上位を独占しています。

中国では、このような競合となる大手企業のサービスをあらかじめ遮断することで、国内のIT産業の成長を促進しようという狙いがあるようです。実際に、中国国内では、独自のインターネットサービスが開発され、普及しています。

例えば、中国のIT企業「新浪微博」によって提供されているSNS「Weibo」は、ユーザー数7億人を超えるほどの巨大サービスにまで成長しています。Weiboは短文のテキストと画像の投稿が可能である、中国版のTwitterとも言えるサービスです。

また中国では、友人や家族間でのメッセージのやり取りは、WeChatが利用されています。WeChatは2018年時点で、総ユーザー数が10億人を突破しています。ほとんどの中国人が利用していると言えるでしょう。企業のプロモーションやキャンペーンにも活用されており、インバウンド対策としても大きな効果が見込めます。

LINEやFacebookMessengerが利用できない状況下において、WeChatは着実に規模を拡大しており、運営企業のテンセント・ホールディングスは、2019年時点の世界時価総額ランキングの9位にランクインしています。

グレートファイアウォール(金盾)の仕組み

グレートファイアウォールで情報が遮断される仕組みについて解説します。

DNSのアクセス制御

ウェブサイトを閲覧する場合、入力されたURLに対してDNSサーバーは対象のIPアドレスを問い合わせます。この段階でURLがブロック対象のサイトを参照するものであると、IPアドレスはレスポンス情報を返さず、サイトは表示されません。

接続フェーズを監視

IPアドレスを直接指定してサイトを閲覧しようとした場合でも、グレートファイアウォールはIPアドレスのチェックを行います。IPアドレスがブロック対象として登録されていた際は、その段階で接続が遮断されます。

特定のキーワードを監視

検索クエリなどに特定のキーワードが入っていた場合も、グレートファイアウォールは接続を遮断します。具体的には、政権に批判的な単語や中国当局が情報を広めたくないと考えている事件に関するキーワードなどです。

ページのスキャニング

接続の工程をすべて突破して、ウェブページにアクセスした場合でも、グレートファイアウォールはページのスキャニングを行い、問題がないかどうかを解析します。このチェックが完了し、問題ないと判断されたページのみ表示することができるのです。

グレートファイアウォール(金盾)を避けてインターネットを利用するVPNとは

実は、グレートファイアウォールを避けて、海外製のSNSやインターネットサービスを利用する方法は存在します。具体的には「VPN」と呼ばれる仮想ネットワークを使う方法です。これにより、検閲システムに引っかかることなく、自由なアクセスが可能になります。

VPNとは何か

VPNとは、「Virtual Private Network」の頭文字を取ったもので、仮想ネットワークを構築する仕組みを意味します。VPNを用いた通信は、暗号化されます。これは無料Wi-Fiなど、公衆の回線を利用する際などに用いられます。無料Wi-Fiなどは、通信内容を改ざんされたり、盗み見られたりするリスクを内包します。そこで、VPNを利用して仮想通信環境を作り、デバイスやアクセスポイントなどの情報を暗号化することで、安全な通信が可能になるのです。

VPNを利用する場合、世界各国に存在するサーバーから任意のIPアドレスを取得できるので、「中国国内からのアクセス」ではなく、「海外からのアクセス」のような状況を作り出すことができます。これらの暗号化された情報は、グレートファイアウォールのシステムで解読することができません。

ただし、完全にグレートファイアウォールを回避できるわけではないという点には注意が必要です。中国国内でも法改正が随時行われています。特に2017年のサーバーセキュリティ法の施行によって、VPN通信を用いた場合でも、サイトやSNSへのアクセスが制限される事例が増えているのです。またVPNサービスは、政府が認めたものしか利用できない状況が広まっています。つまり、VPN通信そのものも、当局の監視下に置かれるようになりつつあるのです。

実際に、無料のVPNサービスは現在、利用できなくなっており、さまざまな有料サービスにも、徐々に規制がかかるようになっています。

インバウンド対策を行う上で気をつけなければならないこと

日本を訪れる中国人は、旅行前にインターネットやSNSを通じて、口コミや評判などさまざまな情報を集めると言われています。インバウンド対策として、オンラインのマーケティングを実施することは重要です。訪日中国人へのマーケティングを行う際には、中国のインターネット事情に合わせた内容の発信を行うことが欠かせません。

中国で利用されているサイト・SNS上で、情報発信を行う

中国ではいまどのようなサイトやSNSが利用されているのか、正しく把握して、適切なプラットフォーム上でマーケティングを行うことは重要です。どれほど熱心に情報発信をしても、検閲に引っかかってしまい、顧客に届かなければ意味がありません。

また、FacebookやGoogleのアカウントを利用した会員登録機能なども、もちろん利用できません。これらの機能は日本では当たり前であるため、見落としてしまいやすい傾向にあります。

コンテンツの内容には気をつける

訪日中国人向けに情報発信を行うのであれば、WeiboやWeChatを使うのが一般的となるでしょう。日本企業が投稿したり、広告を出したりすることは可能ですが、コンテンツの内容には十分気をつけなければなりません。特に政権を批判するような内容が含まれていないかどうか、使用禁止の単語が使われていないかどうかは、入念にチェックしておきましょう。

国内の事情を理解し、適切な情報発信を行いましょう

この記事では、グレートファイアウォールについて解説しました。中国のインターネット事情は、日本と大きく異なるため、戸惑う部分もあったのではないでしょうか。中国をはじめ、キューバやベトナムなど共産主義の国では、内容に応じてコンテンツを規制する法律が施行されている国があります。これらの国へ情報発信を行う場合には、それぞれの国の社会情勢や政治的な背景を理解し、正しくコンテンツを作っていくことが大切です。