ビザの緩和や経済の回復などにより観光業界は急速な成長を遂げ、世界中で旅行する機会が増えています。
しかし、急速な成長にともない問題視されているのが「オーバーツーリズム」という現象です。
今回は、オーバーツーリズムとはどういった現象なのか、オーバーツーリズムの原因や影響、持続可能な解決策について解説していきます。
オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズムは「オーバー(許容範囲を超えた)」と「ツーリズム(観光)」を組み合わせた造語です。
観光地や特定の地域において訪問客が集中的に増加することで、社会や環境への負担が大きくなっている状態となり、世界各国の観光地で問題視されています。
そのため、別名「観光公害」とも表現されています。
日本においてオーバーツーリズムの現状
日本政府観光局によると、2022年11月の訪日外国人旅行者数が93万人、2023年3月には約2倍の181万人に達したと発表されました。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の同月比が65.8%まで回復したことになります。
円安の追い風、特に中国からの団体旅行の解禁となればさらなる急回復が見込まれ、態勢が整っていないまま受け入れる状態となります。
観光業界に関わる人や地域住民にとっては急すぎる訪日客回復によって、嬉しい悲鳴となっています。
オーバーツーリズムが発生する原因
どういったことが要因となり、観光客が押し寄せるオーバーツーリズムとなっているのでしょうか。
②交通インフラの改善
③人口構成の変化
順番に解説していきます。
原因①インターネットとSNSでの観光情報シェア
インターネットやSNSの普及が加速し、観光地の情報が簡単に共有・拡散されているためです。
インターネットやSNSで情報を発信・共有しているのは個人だけではなく、観光業者や各国の観光局など、積極的なマーケティングキャンペーンとプロモーションが合わさり人々の関心が集中しています。
世界中どこにいてもトレンドや口コミ、フォトスポットなどの情報をキャッチすることができることから、観光客の数が急増する結果となっています。
原因②交通インフラの改善
格安航空会社(LCC)の普及とともに、インターネットによる利便性の高い予約システムの構築がされていることです。
航空路線の拡大や高速道路の整備など、交通インフラの整備が整っていることで観光客の流入へとつながっています。
原因③人口構成の変化
旅行に積極的なミレニアル世代(1980年・1990 年代生まれの人々)の所得の向上や、長寿化による高齢旅行者が拡大していることです。
世界においてはアジアを中心とした新興国の中間層・富裕層の増加や、コロナウイルスの感染拡大がやっと落ち着きをみせたことでビザが大幅に緩和され、旅行する人の割合が伸びていることも要因となっています。
オーバーツーリズムが及ぼす影響
観光客が特定の地域に集中することによってオーバーツーリズムとなり、どういった影響をもたらすのでしょうか。
②ゴミ・騒音問題
③観光資源の損傷
④地域経済の悪化
⑤環境・地域資源の破壊
1つずつ見ていきましょう。
影響①混雑・遅延・渋滞問題
観光地付近に住む住民や社会に対して、混雑・遅延・渋滞問題があげられます。
人が多く集まれば電車やバスの公共交通機関、飲食店、トイレなどが混雑します。
観光客はスーツケースやお土産などの大きな荷物を持っていることが多いため、通勤や通学に影響を与えてしまいます。
影響②ゴミ・騒音・治安問題
世界各国からの旅行者、つまりそれぞれの国・地域で文化やルールが異なります。
そのため、ゴミの不法投棄、飲食禁止エリアでの立ち食い、喫煙禁止エリアでの喫煙、立ち入り禁止区域への侵入、夜間の騒音など生活環境が悪化する可能性が高まります。
治安悪化となれば、住民が流出する事態にもなりえるでしょう。
影響③観光資源の損傷
観光資源である重要文化財や遺跡などの損傷です。注意書きをうっかり見落としてしまっている場合もあれば、故意に壊したり落書きをしたりするなど理由はさまざまあります。
建造物や彫刻といった歴史上・芸術上価値の高いもの、美しい街並みや自然が魅力となっている観光地の景観・雰囲気の毀損(きそん)、施設の営業中止にもつながります。
影響④地域経済の悪化
生活環境の悪化や観光資源の損傷など、観光客の満足度が低下すればおのずと観光客が減り、観光収入も減少してしまいます。
観光業への依存度が高ければ、地域全体の経済悪化へとつながってしまいます。
影響⑤環境の破壊
クルーズ船の発着や大量の廃棄物などによる環境問題も指摘されています。
自然環境や生態系が損なわれれば、地域に存在する特有の資源「地域資源」への影響にもつながる可能性があります。
オーバーツーリズムへの対策・解決策
具体的にどういったことをすれば、オーバーツーリズムを防げるのでしょうか。
②ずらし観光やワーケーションの推進
③代替ルートや別観光地の提案
④手ぶら観光の促進
⑤入場制限を行う
対策①観光客の集中を防ぐ見える化
スマートフォンの位置情報を収集・分析し、混雑状況を可視化することです。
曜日・時間・時期の混雑予測やリアルタイムの混雑状況を公開することで、集中を防ぐことができます。
対策②ずらし観光やワーケーションの推進
観光客が訪れる日程・時間帯・季節を分散させる仕組みづくりです。
混み合う週末から平日に、ピークタイムからアイドルタイムに来てもらうため、魅力となる旅行プランや施策の開拓、ビジネス利用もできるようなワーケーションの推進を行うのが有効です。
対策③代替ルートや別観光地の提案
渋滞や混雑が見込まれる場合は、代替ルートや別観光スポットの提案を行うことです。
この場合、他の観光スポットや交通機関の整備・受け入れが必要となります。
対策④手ぶら観光の促進
先ほど、観光客が多くなれば混雑・遅延・渋滞問題となるとお伝えしましたが、スーツケースや免税店等で購入したお土産が入った大きな荷物を運ぶ不便の解消をすることです。
次の目的地となる空港・駅・ホテル・商業施設・海外の自宅への配送、あるいは一時預かりを行うサービスの提供です。
旅行者にとって快適な観光となれば、手ぶらで気軽に移動できるからこそ、さらなる消費拡大にもつながります。
対策⑤入場制限を行う
コロナ禍で三密を避けるため入場制限を行ったように、観光地への入場を規制することです。
入場制限と加えて事前予約や利用施設の有料化をすることも、混雑を避けられる対策となるでしょう。
まとめ
今回は、地域住民や観光客もが悲鳴をあげてしまう現象「オーバーツーリズム」について解説しました。
訪日観光客の急速な回復にともない、観光に関連する業界の人々にとっては嬉しい状況となっている半面、地域住民への悪影響や受け入れ態勢の準備が整っていないなど多くの課題があげられます。
「観光客を満足させるための動き」だけでなく、「地域住民や持続可能な社会を優先する動き」とのバランスが大きなカギとなっていくだろう。